電子瓦版(転送はご自由にどうぞ) ━・━・━・━・━・━・━・━・━・━・━・━・━・━・━・━・━ メルマガ♯がんばろう、日本! №293(22.12.29) ━・━・━・━・━・━・━・━・━・━・━・━・━・━・━・━・━ 「がんばろう、日本!」国民協議会 http://www.ganbarou-nippon.ne.jp ================================== Index □ 歴史的転換期に考える「戦争と平和」と民主主義 ●多元的・多層的なグレーの世界で平和を希求するために ●台湾有事を戦略的に抑止するとは □ 囲む会(東京・京都)【会員限定】のお知らせ □ 総会のお知らせ ================================== 歴史的転換期に考える「戦争と平和」と民主主義 ================================== 【多元的・多層的なグレーの世界で平和を希求するために】 新しい年を迎えても、残念ながら戦争は続いている。むしろ「戦争の終わり」は、ますます見えなくなっている。一般に戦争は終えるほうがはるかに難しい。そのうえこの戦争の「出口」には、新たな国際秩序の再構築という難題が待ち構えている。 「プーチン大統領が決定的な戦争への引き金を引いたために、世界は後戻り不可能な段階に入った。幸いにして人類がこの戦争後に生き残っていたとしても、戦前への復帰ではなく新たな秩序構築が課題となるだろう」(中西寛 アステイオン097)。 プーチンが始めた戦争を既存秩序への挑戦ではなく、既存秩序の解体過程の最終段階ととらえ、新たな戦後秩序の構築という課題を見すえつつ、目の前の事態に対応していかなければならない。私たちは、そんな歴史的転換期のカオスの渦中にいる。 転換期のカオスでは、「これしかない」という一元的な見方や民主主義対権威主義などの二項対立的な発想では視野狭窄に陥り、道を誤る。これは戦前日本の教訓からも明らかだ。 中西氏は前出の論考において、『危機の二十年』におけるE.H.カーによる第一次大戦後の英語圏でのユートピア主義に対する批判の今日的示唆として、一元論的な「教条的自由主義」に対して多元的な自由主義の視点を回復すべきと説く。 (冷戦後、自由主義への対抗イデオロギーが存在しなかった)「だからこそ過去三〇年の国際政治の基本問題は自由主義がなぜその優位を失い、権威主義への後退を重ねるようになったかに向けられるべきだろう」(前出)。 「人々が追求する価値は複数存在しており、しかもそれらは共約不可能な矛盾ないし対立を含んでいるから、それらの関係について合理的基準や技術的分析による解答を引き出すことはできず、対話、手続き、判断といった過程を経た決定が不可欠であり、しかもその決定は妥協的、暫定的解決でしかない。この営みこそが政治的思考と呼ばれるべきであり、その領域の自律性の回復こそが課題である」(同前)。 まさに世界は「白か黒か」ではなく、多元的・多層的なグレーのグラデーションであり、そのなかで妥協的・暫定的な合意形成を繰り返していく胆力こそが求められている。 こうした胆力を鍛えるうえで歴史の教訓はきわめて大切だ。ここでも立ち止まること、内省力を働かせることがなければ「これしかない」と「今」を正当化することになる。 「ロシア・ウクライナ戦争を契機に、現在の視座から歴史を裁断するという風潮が一気に強まってしまった」(板橋拓己 世界12月号 対談「転換期の世界をどう見るか」)。 「ロシアが二つの人民共和国を独立させて侵攻するというのは、満州国を独立させた一九三〇年代の大日本帝国と重なります。日本の議論で気になっているのは、今のロシアが八〇年前の日本だったのだという反省意識があまりないことです」(同前) 「日本の防衛力の強化を考えるのは、これから大切な問題になってきます。現在の東アジアの情勢に鑑みればそれは当たり前のことなのですが、ロシア・ウクライナ戦争をめぐる日本の論壇の議論を見ていると、過去の戦争に対する歴史認識がこれだけ偏ったまま進んでいくのは危ういと言わざるを得ません」(同前) これは加害/被害という次元にとどまる話ではない。転換期にあって、目の前の事態の背景にある「構造」を見きわめることが、いかに大切かということだ。 加藤陽子・東京大学教授は、トインビーや胡適が当時、満州事変という発端が米ソをも巻き込んだ世界戦争になっていかざるをえないことを見通していたことを紹介して、こう述べている。「軍や権力によるアジテーション、『嘘』と、その背景にある構造を見きわめること、そのことの大切さを満州事変から太平洋戦争までの歴史は教えてくれます」(世界1月号「それでも、平和を希求するために」)。 【台湾有事を戦略的に抑止するとは】 台湾有事や中国の軍事的脅威が喧伝される中で、目の前の事象の背景にある「構造」を見きわめる視点の大切さは言うまでもない。その「構造」とは、「そもそもロシアは・・・」とか「もともと中国は・・・」というような決定論的な視座の対極にある「可能性の束」として現実を見る視点だ。 「道が一本しかなく、そこを歩む以外の選択肢がないことの肯定はリアリズムではない。こうした俗流リアリズムは、『現実というものをいろいろな可能性の束として見ないで、それをでき上ったものとして見ている』」(鵜飼健史「政治責任 民主主義とのつき合い方」岩波新書)。 「もちろん西側は何もやってこなかったわけではありません。九〇年代にはロシアを欧州評議会に入れたりしてきました。けれども結局のところ居場所を与えることに失敗しました。それがプーチンを免罪する理由には一切ならないのですが、それでも自分たちも何かを間違ったかもしれないという反省意識がヨーロッパの言論にはあります。こうした点は日本でももっと議論されてよいと思います」(板橋 前出)。 「パワーバランスの歴史的変化と地政学的競争の激化で、国際秩序は重大な挑戦にさらされており、対立と協力の様相が複雑に絡み合う時代になっている。我が国は戦後最も厳しく複雑な安全保障環境に直面している。ロシアによるウクライナ侵略で、国際秩序を形作るルールの根幹が簡単に破られた。同様の事態が、将来インド太平洋地域、東アジアで発生する可能性は排除されない。我が国周辺では、核・ミサイル戦力を含む軍備増強が急速に進展し、力による一方的な現状変更の圧力が高まっている」。岸田政権が閣議決定した国家安全保障戦略策定の趣旨(要旨)だ。 私たちが多大な恩恵を被ってきた地域の平和的秩序は揺らいでいる。その大きな要因は軍事的威圧を強める中国にあり、外交を機能させるためにも力の均衡が必要だということには一理ある。だからこそ、軍備の議論に収れんさせてしまうのではなく、「構造」を見きわめるためにも多面的な議論が必要ではないか。 例えば中国vs日米同盟という構図で日本の立ち位置をとらえがちになるが、それではアジアの現実との間にズレが生じる。宮城大蔵・上智大学教授は、次のように指摘する(朝日12/14)。 《「なんでもかんでも『中国対抗』にひもづけて外交を考えると、大事なことがこぼれ落ちる恐れがあります。たとえば、韓国や東南アジアの国々は中国との関係も重視しており、中国対抗で言えば『あてにならない』相手になってしまう。しかし、両者とも日本にとって重要な国であることは言うまでもありません」 「中国が2010年に経済規模で日本を追い抜き、12年に尖閣国有化をめぐる問題が起きました。このころから、国民感情としても経済だけではなく、安全保障面でも中国が脅威ととらえられるようになり、日本のアジア外交のあり方が大きく変わりました」 ――どのように? 「日本には明治以来、列強の一員を目指す一方で、アジアのことはアジアでという『アジア主義』的な発想がありました。世界で主導権は握れなくても、アジアでは突出した力を持つ日本がごく自然なリーダーだと。それが『大東亜共栄圏』まで暴走して敗戦を迎えた後、日米安保を基軸としながらも、アジアでは日本が主体性を持ってアジアの国々と連携して何かやれると模索する動きがあったと思います」 「しかし、中国が国力を増し、経済的にアジアの柱になったことで、アジアのことはアジアでと言ったとたん、中国主導になりかねない。そこで、米国と組んでアジアで中国に対抗することを最優先とする流れに染まっています」 ~中略~ ――アジアが実現した豊かさと、パワーバランスの変化による安全保障のきしみの乖離(かいり)が激しくなっています。 「日本が考えるべきことは、アジアが将来にわたってどう共存できるか、どう共存させるかではないでしょうか。そこから逆算して何が必要かを考えるべきです」 「アジアの50年代は独立を目指す時代でした。70年代以降は豊かさを求めて政治体制を問わず、開発を重んじた。90年代は、豊かになれば民主化すると先進国から期待された。ところが、現状は中国だけでなく、少なくない国で権威主義が力を得ている。それでも関係を破綻(はたん)させるわけにはいかない。忍耐強く共存を追求するしかないのです」》 台湾有事についても、「台湾の人たちは、今は脅しの段階だと思っている。私もそう思っています。日本で中国語が読めて台湾の現地感覚のある地域専門家は、中国からの侵攻、いわゆる台湾有事はすぐにはなく、現在は基本的に「脅しの段階」にあるだろうと言っています。一方で安全保障の専門家は、台湾有事はすぐ目の前にあると思っている。そこにも〝ずれ〟があります」(川島真・東京大学教授 523号)。だからこそ、有事を回避するための多面的な取り組みに注力する必要がある。 もちろん現時点でも台湾が一定の軍事力を保持し、アメリカが関与の可能性を維持しているという力の構造が、中国の武力行使のハードルを高めていることは重要だが、むしろ日本には「巻き込まれ」論を乗り越えるような主体的な立ち位置が問われているのではないか。「アジアが将来にわたってどう共存できるか、どう共存させるかではないでしょうか。そこから逆算して何が必要かを考える」(宮城 前出)こと、そのなかでの台湾(の市民社会)との共有環をつくりだし、武力行使を許さないという国内外の強い世論――ロシアが直面したような――で中国を包囲し続けていくことではないか。 台湾は自らの戦略的価値を「民主主義と半導体」としているという。これに応えるような戦略的な抑止の構造を作り出すこと、そこから軍備を定義していくことではないか(まず軍備ありき、ではなく)。 「日本国憲法の前文と9条の精神は先の大戦の反省にたって、平和を維持することにあり、それは自国だけでなく国際社会の平和も願っているものだろう。台湾有事を抑止していく各種取り組みは日本の平和主義の実践になるはずだ」(劉彦甫@LIU_Yen_Fu 東洋経済新報社記者) (「日本再生」524号 一面より) ================================== □ 「囲む会」のお知らせ 東京 京都 ================================== ●第210回 戸田代表を囲む会 【会員限定】 1月18日(水) 18時30分から21時 ゲストスピーカー 宮城大蔵・上智大学教授 「日本のアジア外交」(仮) 「がんばろう、日本!」国民協議会 市ヶ谷事務所 会員/2000円 同人/1000円 《参照》 ・朝日新聞12/14インタビュー 「日本のアジア外交」 宮城大蔵・上智大学教授 以下は有料記事ですが、途中まで読めます。 (インタビュー)日本のアジア外交 上智大学教授・宮城大蔵さん:朝日新聞デジタル (asahi.com) ・以下も会員限定記事ですが、途中まで読めます いびつな議論 投影危惧 宮城大蔵氏(上智大学教授)<沖縄の視点から安保3文書を読み解く>⑤ - 琉球新報デジタル|沖縄のニュース速報・情報サイト (ryukyushimpo.jp) *オンライン配信については未定。準備ができれば行いたいと思います。 ================================== ●第211回 戸田代表を囲む会 【会員限定】 3月21日(火・祝) 13時から15時 ゲストスピーカー 鵜飼健史・西南学院大学教授 「民主主義を機能させる」(仮) 「がんばろう、日本!」国民協議会 市ヶ谷事務所 会員/2000円 同人/1000円 *「政治責任を考える 民主主義とのつき合い方」(岩波新書)の著者・鵜飼先生に、お話しいただきます。統一地方選を間近に控えた時期ですが/だからこそ、改めて自治体選挙と民主主義について考えたいと思います。 *オンライン配信については未定。準備ができれば行いたいと思います。 ================================== 第41回 戸田代表を囲む会in京都 1月13日(金) 18時30分から21時 ゲストスピーカー 岡田知弘・京都橘大学教授 「私たちの地方自治 自治体を主権者のものに」 キャンパスプラザ京都 5階「演習室」 会費 1000円 ================================== 第13回 総会【会員限定】 2月5日(日) 13時から17時 市ヶ谷事務所+オンライン ================================== 石津美知子 「がんばろう、日本!」国民協議会 http://www.ganbarou-nippon.ne.jp |