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「がんばろう、日本!」国民協議会
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▼ Index 
受益と負担の議論を、信頼と連帯の糸口にできる民主主義へ

●財政再建はゴールではない。社会を支えるための持続可能な財政を。
●受益と負担、選択と集中を議論する民主主義を自治の現場から
●受益と負担をめぐる議論を、信頼と連帯の糸口とするために

□お知らせ 3月から4月の「囲む会」&シンポジウム&総会
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受益と負担の議論を、信頼と連帯の糸口にできる民主主義へ
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●財政再建はゴールではない。社会を支えるための持続可能な財政を。

 四月から消費税が8%に上がった。来年秋には10%になる予定である。純増税 (減税とセットでない増税)は一九八一年以来、じつに三十三年ぶりだ。
 わが国の財政は一九九〇年代以降、歳入と歳出の乖離が年々拡大する一方だ。そ れを表すグラフは、よく「ワニの口」に例えられる。積みあがった財政赤字はいまやGDPの二倍、一千兆円に及ぶ。この間歳出の増減は 一定の範囲であるのに対して、一般会計に占める税収の割合は、九三年の約70%から約40%へと右肩下がりで落ちている。財政赤字の 原因は歳出の増大ではなく、税収不足であることは明らかだ。その不足分を現在世代が負担することなく、将来世代にツケを回すという未 来を搾取する社会。これがGDPの二倍に及ぶ財政赤字にほかならない。

 今回の消費増税を、こうした未来を搾取する社会から、未来へ投資する社会への 転換の一歩とすることができるか。それが問われている。カギは、増税―負担増をめぐる合意形成ができるかだ。減税に反対する人は、ほ ぼいない。増税―負担増をめぐる合意形成においてこそ、民主主義の真価・深化が問われる。

 「日本の租税負担率(国民所得に対する税収の割合)は、先進国のなかで最も低 い部類にあります。日本は大きな政府ではなく、むしろ小さな政府です。小さな政府で軽い税負担なんですが、それでも税収が政府の規模 にくらべてはるかに低い。増税は避けられないと思います。ただ、やり方として、不十分なサービスしか与えず、『このままでは財政が破 綻するぞ』と、国民を脅して税金を払わせるのなら問題です。これでは恫喝国家です」(井手英策・慶応大学教授 3/14朝日)

 財政状況に対する危機感は必要だ。だが財政再建はゴールではない。財政再建の ための社会ではなく、社会を支えるための財政再建(持続可能な財政)が必要なのだ。

 「日本は〜先進国のなかできわめて『小さな政府』である。そのような小さな政 府が、なぜ空前の財政赤字に苦しみ、反対になぜ北欧諸国のような支出の大きな政府が、時には財政黒字さえ実現するのであろうか。〜結 局のところ、財政健全化の帰趨を決するのは、租税を調達する政府の実力なのである。中間層を受益者とし、財政高権(徴税権/引用者) の行使を国民に説得する能力のない政府、支出の節約に血道をあげ、奪い合いを是とする政府は、租税抵抗を生み、財政赤字に苦しむこと だろう」(井手英策 「日本財政 転換の指針」岩波新書)

 「租税を調達する政府の実力」とは、まさに民主主義の成熟度にほかならない。 税は「取られるもの」ではなく、人々が「主権者として社会を共同で運営するために政府を作り、税を納める」ということが、どこまで実 体となっているか。
 そのためには税の問題を「目先の損得」ではなく、受益と負担のバランスから考 える、という土俵が不可欠である。今回の消費増税は、本来は「税と社会保障の一体改革」という問題設定からのものであり、まさに受益 と負担のバランスの議論へ一歩踏み出すべきものであったはずだ。

 〇四年参院選で当時の民主党(岡田代表)は、野党としてはじめて「年金財源の ための消費増税」を掲げて、議席、得票とも自民党を上回った。「税と社会保障の一体改革」をめぐる三党合意(中身についての議論は別 として)を可能にしたのは、永田町の力学や駆け引きではなく、目先の損得ではなく受益と負担のバランスから税を議論しようという民意 の集積にほかならない。「財政破綻」の脅しや「景気後退」の目くらましではなく、持続可能な社会保障のための財政健全化へと、議論を 進めるべきだ。その主体的推進力は、永田町の外にある。

●受益と負担、選択と集中を議論する民主主義を自治の現場から

 まちの財政がどうなっており、どうなりうるか、受益と負担を「見える化」して 市民と議論する―自治分権の現場で、改革に取り組む首長がやっていることだ。敬老祝い金の廃止や減額、ゴミ収集の有料化、あるいは老 朽施設の建て替えなどをめぐる議論を繰り返すことで、たとえ「納得」まではいかなくても少なくとも「理解」は得られる。こうした議論 を通じて合意形成のレベルも、「負担増(受益減)に賛成か、反対か」というレベルを卒業して、優先順位や受益と負担のバランスをめぐ るものへと深化していく。

 「尼崎市でも、過去の借金の返済、福祉にかかる費用の増大、老朽化した公共施 設の更新など多くの課題に直面している。〜こうした中、〜実感することが二つある。
 一つは、多くの人にとって、財源が足りないという事実を認識し、納得するのは 簡単ではないということだ。〜もう一つは、あれかこれかを選択するための情報の伝え方がまだ不十分という点だ。サービスの見直しは総 論賛成、各論反対になることが多い。〜この場合、そこでテーマとなっている問題を説明するだけでは説得力を持ちにくい。取り組もうと している政策の全体像を示し、当該テーマの位置付けや論点を共通の理解としていかなければ、優先順位は議論できない。
 〜財源が足りていない現実を共有することから出発して、改革を先送りするリス クを説明し、改革に取り組んだ先の将来像を希望を持てる形で示すことが求められる」(稲村和美・尼崎市長 朝日2013/12/2)

 受益と負担のバランスは、財政の観点からではなく、社会的公正の観点からはじ めて論じることができる。財政が厳しいから○○をカットするといえば、その受益者が反対するのは当然だ。それを「既得権益」として叩 いても、自治も民主主義も前には進まないどころか、社会の分断だけが残ることになる。

 優先順位を選択するためには、現状認識の共有とともに「部分最適か、全体最適 か」「現状最適か、将来最適か」といった視点を交えてこそ議論ができる。こうした議論ができる場こそ、議会にほかならない。「サービ スの見直しは総論賛成、各論反対になることが多い。〜この場合、そこでテーマとなっている問題を説明するだけでは説得力を持ちにく い。取り組もうとしている政策の全体像を示し、当該テーマの位置付けや論点を共通の理解としていかなければ、優先順位は議論できな い」(稲村・尼崎市長 前出)とあるように、優先順位を選択する議論は「賛成、反対」というだけでない、いわば熟議が不可欠となる。 首長の側がタウンミーティングなどでそれをやると同時に、議会こそが市民を巻き込んで、あるいは市民に開かれたアリーナとしてこうし た議論を展開すべきである。

 地方分権で自治体の地域経営の自由度が高まるなか、議会が地域経営に責任を持 つためには、議会自らが情報を市民と共有し、優先順位をめぐる討論能力を高めることが問われる段階に入りつつある(416号廣瀬克 哉・法政大学教授、418号江藤俊昭・山梨学院大学教授 参照)。「超高齢社会を迎え限られた予算の中、厳格な選択と集中を行わなけ れば自治体経営は成り立たない。政策を決める過程で十分な討論を行い住民理解を得ることで、初めて(議会)基本条例は生かされる」 (中尾修 毎日3/6)

 市民の側にも「よりいっそうの参加」が求められる。北本市では新駅建設の是非 を、住民投票で問うた。財政的には十分裏づけがあるが、それでも多額の投資となるため市民の意思を問うべきだと、市長が提案したもの である。結果、新駅建設に反対が圧倒的多数となり、計画は白紙となった。

 住民投票について、賛否に単純化することの弊害を指摘する向きがあるが、自分 たちの一票で決まる、ということになると、市民のなかで問題提起や議論が活発に行われるようになる。新駅の是非のみならず、「まちの 財政はどうなっており、どうなりうるか」、「人口減時代のまちづくりのをどうするか」などが活発に議論される。
 同時にその選択の結果についても、市民の責任となる。住民投票をして「反対、 後は市長が考えろ」ということにはならない。住民投票を契機として、受益と負担、選択と集中をめぐる議論へと深化・発展していく可能 性、課題が見えるようになる。

●受益と負担をめぐる議論を、信頼と連帯の糸口とするために

 受益と負担をめぐる議論はしかし、時として分断と不信に転じる場合がある。財 政が厳しいから○○をカットするといえば、その受益者は反対する。それを「既得権益」「敵」といって叩くというやり方では、「財政高 権の行使を国民に説得する能力のない政府」(井手 前出)と分断社会しか生み出すことはできない。これはえてして都市部に見られる構 図である。

 「負担増の議論が俎上にあがると、決まって聞こえてくるのは『どこかにズルを している人がいるに違いない。そういう人を放置したままでは、負担は引き受けられない』という訴えである。これは単に経済だけの話で はない。社会における『厄介事』の背景には、どこかに『真犯人』がいて、それをたたけば解決するはずだ、という単純化された世界観が あるのかもしれない。〜そうやっていわば『モグラたたき』を20年以上続けてきた日本社会に残ったのは、根強い相互不信の闇だけでは ないのか。
 私たちはそろそろ、このような他罰的な思考習慣から卒業すべきだろう。今この 社会に必要なのは、言葉通りの意味で、仲間とともに協力して何かを成し遂げるという、少し青臭いが、健康で常識的な生き方であるはず だ。
 そこでクローズアップされてくるのが、『コミュニティー意識の再構築』であ る。これは相互監視を強化しようなどと言っているのではない。〜仲間のためなら負担増も引き受けよう、そういう気概も生まれてくるは ずだ。会ったことも見たこともない、しかしきっとどこかでつながっている、そういうネットワークが私たちの社会を間違いなく支えてい る」(神里達博・大阪大特任准教授 朝日2013/12/2)

 例えば3.11後は、それまでは考えもしなかった「コンセントの先」がどう なっているかを抜きに、エネルギーや原発の問題を議論することはできなくなったはずだ。人と人とのつながり、社会の支えあいというも のを可視化しているのも、3.11後の新しい現実だろう。受益と負担をめぐる議論を、信頼と連帯の糸口とするか、不信と分断の連鎖に 転じるか。3.11後の新しい現実を、負担増をまともに議論できる民主主義の力へと成長させていこう。
 4/13東京、4/27京都のシンポジウム、ならびに5/17総会では、こう いう議論を進めていきたい。
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□お知らせ 「囲む会」&シンポジウム&総会
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◆第136回 東京・戸田代表を囲む会
「日本の農業・中山間地と、農協の課題」(仮)
4月22日(火)18時45分より21時
ゲストスピーカー 石田信隆・農林中金総合研究所理事研究員
「がんばろう、日本!」国民協議会(市ヶ谷)
参加費  同人1000円 購読会員2000円

◆シンポジウム
「自治体財政と地域民主主義」
4月13日(日) 13時より17時
アルカディア市ヶ谷 5階「大雪」
参加費 2000円

《問題提起とパネルディスカッション》
諸富徹・京都大学教授、廣瀬克哉・法政大学教授、田中秀明・明治大学大学院教授
松本武洋・和光市長、石津賢治・北本市長

◆関西政経セミナー
「地域の課題を解決する地域の総合力―地域自主組織の底力」
4月27日(日)14時から18時
エルイン京都 会議室
参加費 1000円

《問題提起とパネルディスカッション》
岩崎恭典・四日市大学教授、諸富徹・京都大学教授、川勝健志・京都府立大学准教 授
隠塚功・京都市議、四方源太郎・京都府議、田中誠太・八尾市長
山中光茂・松阪市長(予定)

◆総会(第七回大会第四回総会)
5月17日(土) 10時から18時(予定)
「がんばろう、日本!」国民協議会 事務所(市ヶ谷)
ゲストスピーカー 諸富徹・京都大学教授 ほか

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石津美知子
「がんばろう、日本!」国民協議会