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□ 畏れるべし、民意のTSUNAMI
  二大政党・マニフェスト選挙の蓄積をさらに深めよう
  第44回総選挙の総括〜その壱〜

 ◆小選挙区制―政権選択は定着へ

 ◆マニフェスト政党への脱皮―問われる党改革

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 畏れるべし、民意のTSUNAMI
 二大政党・マニフェスト選挙の蓄積をさらに深めよう
 第44回総選挙の総括〜その壱〜
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◆小選挙区制―政権選択は定着へ

熊    いや〜、自公で三分の二なんて、すごい結果が出たな。さしずめ、せっか
く建てかけていた「政権準備党」の家が、小泉大津波で一気にさらわれたってところ
かな。

八    「小泉大津波」ってのはいけねぇや。この津波は、これまで投票に行かな
かった有権者が投票に押し寄せたことによるものだ。投票率67.5%は小選挙区制度に
なってから、最も高い数字だ。今回は小泉、岡田とも「政権」のハードルを明確にし
て選択を問うた。それに答えて七割が投票に参加したわけだ。そういう意味では、小
選挙区制―政権選択ということが定着した最初の総選挙、と位置付けられるんじゃ
ねぇか。

熊    そりゃそうだな。うちの三太のダチが今回初めて選挙に行って、この結果
をみてこんなことを言っていたよ。「今回の選挙ほど、一人ひとりの投票行動がダイ
ナミックに政治に反映すると実感したことはなかった。自分ひとりが投票しても何も
変わらないと言われてきたけど、一票の民意が政治に反映されることがよーく分かっ
た。だから小泉さんがちゃんと改革を進めなければ、次は民主党政権に変えればいい
んだよ、おいらの一票でさ」と。
そこから言えば、六割以下の参加を前提に建てていた「政権準備党」の家では、七割
近い参加の前に屋根や壁が吹き飛ばされるのは目に見えている。この結果で民主党
は、二大政党の一翼たりうる政党へ脱皮する以外にないという、絶好の党改革のチャ
ンスを与えられたというべきだろう。

八    二大政党化の流れは足踏みか、なんていう評論は評論屋に任せておけばい
い。ここはしっかり課題を整理することだ。1)二大政党・マニフェスト・政権交代
というロードマップからこの結果を総括し、課題を整理する場合と、2)小泉改革へ
の異議申し立てやチェック、という視点から整理する場合と、3)55年体制の政治
文化で総括する場合とでは、現状のとらえかた、総括の視点はまったく違ってくる。
政党で言えば2は公明党のスタンス、3は社民・共産だ。社民・共産は「アンチ二大政
党」を看板に「民主党叩き」で生き延びる戦術だ。「たしかな野党」にもかかわら
ず、政権批判より野党第一党批判のほうがはるかに多いってのは、どういうこった?
 

熊    この10年あまりの政治改革の蓄積という点から言えば、民主党の比例2100
万票の意味は大きい。03年総選挙が2200万、04年参院選が2100万だから、ほぼ基礎票
と見ていいだろう。改革一般なら、今回は小泉自民に投票した人がかなりいるはず
で、逆にいえばこの2100万は本当に、民主党による政権交代を望んでいる人たちとい
うことになる。トタン屋根やベニヤの壁はふっ飛んじまったが、土台は流されていな
いってことだ。
一方自民党のほうは03年の2066万から今回の2588万まで大きく振れていて、むしろ民
主党以上に「無党派頼み」の体質になっている。小泉自民党の下、郵政・医師会・農
協・土建に象徴されるような旧来の「堅い」支持基盤を切って、都市部の無党派に集
票のポイントを合わせてきた結果が、きれいに出ている。

◆マニフェスト政党への脱皮―問われる党改革

八    課題のひとつは、この2100万の基礎票を政権交代―マニフェスト選挙の能
動的な主体勢力へと、どのようにマネージしていくかだ。一有権者として投票する、
あるいは一参加者として日常活動に参加する、というだけではなく「他者」にマニ
フェストを伝えて働きかけていく「伝達者」になってもらうことだ。そういうアプ
ローチと、一有権者・一参加者へのアプローチとは当然違うし、人間関係のマネジメ
ントも違う。そこはまだ、大半の議員・候補者は見えているとはいえないな。

熊    だから、「フォロワ―としてリーダーを支える」ということが体で分かっ
ている部分からは、「これではちょっと・・・」という声が出てくる。それに対して、
普通の有権者に対してと同じように対応していたのでは、距離を置かれる結果にな
る。とはいっても、こういう部分は「民主党による政権交代」をはっきり望んでいる
から、距離を置いても選挙の投票はする。ある意味で、ここに「甘えてきた」ところ
が七割の参入の前に持ちこたえられなかった、ということでもあるな。

八    前回03年よりも得票数を減らした候補者は、厳しく総括すべきだ。新規参
入の多くが小泉自民党に流れるのは、ある意味やむをえない。もちろん、そのなかで
どこまで票を伸ばせるかが本来の勝負だが、前回よりも1000票単位で減らしていると
いうのは、それ以前の問題だ。要するに「がまん強い」基礎的支持層さえ固められて
いない、選挙を甘く見すぎている、ということだからな。

熊     前回、1万票差以内で自民・民主が争った選挙区は38で、民主21対自民
17だ。当然、全選挙区で相手が比例復活している。ここが今回は自民36対民主2に
ひっくりかえった。しかも1万から5万の大差をつけられているから、民主で比例復活
できたのは8議席だけだ(1万票以下の差は2選挙区のみ)。議席を守った2箇所(静岡
5区/細野議員、滋賀3区/三日月議員)は前回よりも1万以上上積みした結果だ。
「小泉トリックに有権者はだまされている」というヒマがあったら、こういう結果を
真摯に受け取るべきだろう。

八    今回の小選挙区獲得議席は52だが、ほぼ全てで相手が比例復活しているわ
けだから、枝野議員、前原議員、野田議員という中堅幹部クラスも同じ状況に置かれ
ている。2100万の基礎票のどれだけを、一有権者としてだけではなく、政権交代―マ
ニフェスト選挙の能動的な主体勢力として参加するようにできるか、その日常活動の
マネジメントがシビアに問われるわけだ。

熊    もうひとつの課題は、七割の世界との関連だ。「政策」の理屈で判断する
世界、マニフェスト選挙の主体層は、多く見積もっても有権者の三割まで。政権交代
のためには過半数が必要で、そのためには七割の世界のなかに、どのようにマニフェ
スト―政権選択ということを持ち込んでいくか―これが、03年総選挙以降の課題だっ
たわけだ。七合目まで上ってくる過程と頂上を目指して「胸突き八丁」を越える時と
では、有権者への訴え方、組織化、党内マネジメントなど、すべて決定的に異なる
と。

熊    逆にいえば、七割までを参加させるうえでは、小泉のほうが二枚も三枚も
役者が上だったということだな。その新規参入組をマニフェスト選挙の蓄積から受け
入れて、つながりを継続していくマネジメントができるのかどうか。それがこれか
ら、小泉自民党にも民主党にも問われるわけだし、はっきり言えば「岡田民主党」に
は、そこがほぼ見えていなかったということだろう。「日本をあきらめない」という
コピーが、えらく評判が悪かったというのも、ここの問題だ。

八    民主党候補の選対のなかには「有権者の反応のよさと新聞報道とのギャッ
プ」という感覚が、最後まで見られた。確かに有権者は演説を真剣に聞いているし、
手を出してマニフェストを受け取っていく若い世代が目に付いた。しかし別の世界、
あえて言えば七割の世界では、別の分解があったわけだ。小泉劇場の熱狂は、たしか
に01年ほどではなかったが、その底流で新規参入が始まっていた。そこが見えていな
かった、活動のなかで接点がもてなかったということは、ある意味「身内を固める」
選挙をやっていたということでもあるだろう。小泉自民党のメッセージは明快だった
が(中身の評価は別として)、岡田民主党のメッセージはよく分からなかった、とい
う言い方もそういう意味だろ。

熊    三割の世界なら理屈で納得させられる。しかし七割に伝えるためには、理
屈だけではなく、政治行為が必要になる。「情」と言ってもいい。そこに理屈の裏打
ちが伴っていなければ、パフォーマンス、ポピュリズムになり、大衆操作の世界にな
る。しかし「理」を尽くして「情」で伝える―政策を心で伝えることは絶対に必要だ
し、それはパフォーマンスではできない。逆に言えば、三割だけを相手にしている分
には、そうした人間力のなさも「政策のヘリクツ」でごまかせるが、七割のなかでの
多数派形成となると、そうはいかないということだ。

八    8月9日の講演会での議論=都議選総括(『日本再生』317号)がポイント
をついている。マニフェスト選挙の組織戦に必要なものは、地道な地上戦と明確で強
力なメッセージだ。どちらが欠けてもいけない。今回の選挙では、岡田民主党はどち
らも中途半端だった(地道な地上戦の蓄積があるところ=地方が軸=では踏みとど
まったが)。一方の小泉自民党は、メッセージは強力だったが、地上戦はスカスカ
(公明頼みはさらに拍車がかかった)で、ここが今後どうなるのかが問われる。(駆
け込み公募の新人や「刺客」の有名人たちが、「新しい自民党」の基礎組織をどこま
で作れるのか?)
肝心なことは、地上戦はもちろんだが、強力なメッセージも一朝一夕にはできないっ
てことだ。小泉自民党のメッセージは01年総裁選からの継続だし、岡田民主党のメッ
セージも04年参院選後の政治攻防とセットだ。簡単に言えば、「自民党をぶっ潰す」
のホンキを見せた「新しい小泉自民党」に対して、岡田民主党は「党内融和」に軸足
を置き過ぎた。選挙コピーの巧拙だけで「強力な」メッセージはできない。

熊    地上戦もマニフェストによって大きく変わる。「口利きをしないで政策本
位」ということを、地べたの人間関係をつくらないで「政策」を訴えればいいと勘違
いしている向きが少なくないが、マニフェストが伝わるような地べたの信頼関係は
「政策一般」ではつくれない、人間力が問われるということだ。地方議員のところ
は、よりシビアだ。空中戦はほとんどないから、「名前と顔」がどこまで浸透してい
るかの勝負だ。「名前と顔」を口利き・お世話で浸透させるか、それとも「政策」と
セットで浸透させるか。後者は「政策一般」の理屈ではなく、地べたでの信頼関係
(お祭りで御輿をいっしょにかつぐ、町内の掃除に坂するetc)を通じて政策・マニ
フェストを伝え、それによってさらに信頼を深めるというマネジメントが必要になる
わけだ。
口利き・お世話でつくった関係はそれ以上広がらないが、政策で深めた信頼関係は、
その政策がさらに他の人に広がるようになる。「○○さんは地域の活動にもきちんと
参加しているから、信頼している。そのうえ政策もちゃんと言えるじゃないか。今
度、うちの集まりで話してくれないか。○○さんなら、私も自信をもって他の人に紹
介できるから」と。

八    ローカル・マニフェストが浸透していくということは、そういう日常活動
が地方議員のところからも始まるということだ。国会議員・候補と地方議員・候補が
タッグを組んで、コアの支持層と連携しながら、七割にマニフェストを伝えていく
「伝達能力」を競い合う―ここから、マニフェスト政党の地方支部活動(議員個人の
支援組織ではなく)が始まっていくわけだ。07年の統一地方選挙を視野にいれて、こ
ういう組織展開を準備する必要があるんじゃないか。

熊    マニフェストを七割に伝えていく「伝達能力」を競い合い、開拓しあう関
係は、一般有権者―バッジ組との関係とは質が違うし、旧来の国会議員―地方議員と
いうケイレツ発想ともまったく別物だ。ここから本格的に、マニフェストによるマネ
ジメント・政策による政党の紀律化が見えてくるだろう。族議員やら既得権やらとい
う55年体制とは別の時代ステージでの、党改革の幕開けだ。

八    同じことは自民党にも問われる。「郵政」の一枚看板で大量に新人を抱え
込んだが、ポスト郵政の改革課題やポスト小泉についての合意形成、党内のとりまと
めをどうするか。派閥を通じた旧い合意形成システムは壊れているし、「小泉以前」
の自民党には戻れない以上、マニフェストによるマネジメントの糸口を見出せなけれ
ば、巨大な烏合の衆と化しかねない。小泉が任期を延長したとしても、「抵抗勢力」
を敵に見立てての求心力は今回で尽きたわけだから、そう簡単にマネジメントはでき
ないだろう。そのことは有権者からすれば「ここまで強大な権力を与えたのだから、
新しい自民党として改革を大胆に進めないなら、次は民主党に投票する」という話に
なるわけだ。そういう意味でポスト小泉のハードルは、グッと上がった。民主党に
とっては、この民意(七割の世界が「改革」の側で参入してきた)を、マニフェスト
・二大政党・政権選択の政治文化でマネジメントできれば、次の政権交代に王手をか
けることができるわけだ。


(続く)

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石津美知子 ishizu@ganbarou-nippon.ne.jp
 「がんばろう、日本!」国民協議会
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