日本再生 358号 2009/3/1発行

求む! まともな政府(経世済民で機能する政府) 
求む! まともなリーダー(フォロワーシップの転換を組織するリーダー)


変えるのはあなた、政治家ではない
世論から「総スカン」を食う政権と、
「新たな参加」を組織する政権

 麻生内閣がいよいよ「総スカン」状態になった。二月の世論調査では軒並み、支持率はぎりぎり十%台前半、不支持率は八割という数字が出ている。自民党支持層でさえ支持35%、不支持46%と、支持と不支持が逆転した。「今すぐ辞任を」と「予算成立まで」がともに39%と、八割が退陣を要求している(毎日2/23)。まさに「総選挙で混迷を断て」が民意である。その民意をブロックしているのは誰か。
 「今自民党は『麻生では持たない。総裁選を前倒ししよう』と興奮している。念のため『持たないってどういうことですか?』と質問すると『あんた、本当に記者さん? 常識でしょう。麻生さんでは選挙に勝てない。自民党は負ける。我々は落選するということですよ』と笑う。『なぜ、負けるんですか?』と重ねて聞く。今度は『世論調査の支持率ですよ。理由はそれだけで十分』と怒る。世論調査は『国民が今、政治に何を求めているか?』を聞くための手段だが、彼らは内閣支持率と麻生さんの人気(小沢さんの人気)以外に関心がない。世論調査を〔選挙で〕『自らの生活』を守るためのデータと心得ている」(毎日2/24夕刊「牧太郎の大きな声では言えないが…」〔〕は引用者)
   質問と答えがかみ合っていないのは、「もうろう会見」だけではないらしい。選挙を人気投票と考える人々と、一票で政権を選択する機会と考える人々とでは、見えている世界が全く違うので、質問と答えがかみ合わない。そして「日本の民主政のためには政権交代があったほうがよい」が七割の民意になるなかで、主権在民の常識が通じない永田町が「総スカン」を食らいつつある。
 リーダー論も変わりつつある。「郵政民営化に賛成ではなかった」という麻生総理の発言に「怒るというより笑っちゃうくらい、あきれている」と批判し、一躍脚光を浴びた小泉元総理。しかし、郵政民営化に対する麻生首相の一連の発言を「評価しない」が八割にもかかわらず、それを批判した小泉氏の発言を「評価する」は36%にとどまり、「評価しない」が56%にのぼった。また小泉氏が定額給付金を含む第二次補正予算関連法案の衆院再議決を棄権する、としたことについても、「再議決自体に反対」が六割にもかかわらず、小泉氏の意向を「理解できる」は46%、「理解できない」も46%だ。(産経2/24)
 これは何を意味するか。「ポスト麻生」や「第三極」「政界再編」といった類の「自民党内政局」で政治のリーダーを語る時代は終わった、ということだ。言い換えれば中選挙区時代の発想、習慣をひきずって「リーダーがいるか、いないか」といっていれば、「ポスト麻生はドングリの背比べ」「『小沢も麻生もダメ』が依然として六割」、としか見えないことになる。ここにあ

るのは、傍観者としてのフォロワーと「白紙委任」「お任せ」のリーダーという関係だ。
 主権在民、有権者の一票で政権を選ぶ―その基準から、フォロワーがリーダーに対する“目利き”を始めた(まずは消去法から)。このフォロワーからの迫り出しが見えるかどうか。オバマ政権と対比すると、このことは鮮明になる。
 「変えるのはあなた、政治家ではない」。これはオバマ大統領が就任から三日後の演説の中に盛り込んだ言葉だ。経済、イラク戦争、環境など米国が直面する危機を解決するために、ボランティア活動を積極的に展開してほしい、と呼びかけた。「責任の時代」「民主主義の構成者はコストを支払わなくてはならない」という就任演説での訴えには、国民の政治参加=ボランティア精神なくして問題は解決できない、という意味がある。そこには、フォロワーシップを転換するムーブメント(社会的連帯)を呼びかけようという姿勢がうかがえる。
 オバマ陣営が立ち上げたUSAservice.orgというサイトは、政権運営にかかわる草の根のボランティアに参加しやすい環境を整えているという。近所で予定されているボランティア・イベントを探し参加登録することができる一方、イベントの主催者がイベント掲示をして、参加者を募ることも可能になっている。 例えば、ワシントンDC近郊50マイルで予定されているイベントを探すと「読み書き・算数を教えるボランティアを探しています」「軍人への寄付を募ります」「献血募集」など、70以上の様々な内容が書き込まれている。(横江公美 日経ビジネス
  オンライン2/12「O列車で行こう」より)
 「大統領選挙は制度的には大統領を選ぶ作業にすぎず、本来は決まればそれでおしまいのはずである。しかし、キャンペーンの過程で巻き起こった『運動』は、継続的なインパクトをもたらすことがある。第一に、アフリカ系大統領誕生によるアメリカのマイノリティ社会の意識転換である。(中略)第二に、若年層のシニシズムの解消である。政治に関心はあっても、所詮コメディショーで『消費』するジョークの対象にしかすぎなかった政治に対して、若年層の間に参加意欲を喚起させた。この他にもネットによるコミュニケーションのモデルの転換、公共心の鼓舞など様々な事例がある。
 いずれにしても、オバマ選挙は勝つための選挙ではあったが、勝ったあとにもキャンペーンの『副産物』が残る選挙だったといえよう。無論、それがどのように具体的にオバマ政権の政策実現に効果をもたらすかは未知数だ。しかし、キャンペーンをキャンペーンで終わらせない、キャンペーン過程で市民意識が覚醒され、新たな市民同士のネットワークも活性化し、『オバマ運動』に触発された、様々なグループが地域の医療活動、環境対策、教育改革などの『運動』を自主的に立ち上げるとすればどうだろうか」(渡辺将人 アメリカNOW第32号 東京財団ホームページより)
 主権在民のリーダーシップとは、フォロワーシップの転換、新たな政治参加を不断に生み出していく「関係性」のことである。(「リーダーはフォロワーに依存すると同時に部分的にはフ

ォロワーによって形成される。…『カリスマ』はフォロワーから与えられることが多い」ジョセフ・ナイ著『リーダーパワー』)そうした主権在民のリーダーシップを、傍観者の「ないものねだり」ではなく、「あるもの磨き」のなかから迫り出していくこと。これが、われわれにとってのフォロワーシップの転換の課題にほかならない。これによって「求む! まともな政府」の基準をフォロワーから示していこう。


経世済民で機能する政府を! 
主権在民のネットワークで
社会の仕組み、国のあり方を見直し、
チェンジしていこう

 定額給付金をめぐる動向も、「公益のための賢い金の使い方」を求める輿論=フォロワーシップの転換と、「トクかソンか」でしか考えない永田町との乖離を見せつけた。七割がいまだに反対という民意を受けて、予算案を修正するという当たり前の国会になれるか。誰がそれをブロックするのか。ここをしかと見届けると同時に、フォロワーシップの転換をさらに参加型で促進する知恵を地方から出せるか、が問われる段階にはいる。
 定額給付金は法律で義務づけられていない「自治事務」(自治体が独自の判断で条例を定めて行う)であるため、実施に
  あたっては自治体議会の議決が必要となる。国の下請け機関よろしく、「国が決めたから」というだけで議決したのでは、この国に地方分権などないと、地方議会自らが宣言するようなものだ。自立した「地方政府」としての意思を、しかも参加型として示せるか。ここは議会の腕の見せどころ、知恵の出しどころではないか。例えば給付金を市民債や寄付という形で、まちのために使わせてもらうことを考えたらどうか。
 そのためには「何に使うか」「どう使うか」「なぜその事業を優先するのか」などについて、十分な情報公開と説明責任が果たされなければならない。市民債を買う、買わない、寄付をする、しないは市民の判断だ。だからこそ多くの市民に納得・賛同してもらえるような、さらには参加してもらえるような使途、プロセスを提示できなければならない。そういう試みに挑戦する自治体議会がどれだけでてくるか。地方政府の時代の地方議会の姿は、こういうところからも試されるのではないか。
 一万二千円をどう使うか。銀行に預けても利子はスズメの涙以下。異常な低金利のおかげで預金者が失った利子(想定逸失金利)は二三〇兆円といわれている(93年を基準)。預金者から銀行に付け替えられたカネで国債が買われ、政府のバラマキの穴埋めに使われる。そんなお金の使われ方より、顔の見える信頼関係のなかで役に立つ、そういうお金の使い方を考えよう。コミュニティービジネスを支援する地域ファンドだっていい(かつては「講」や「結」というものがあった)。

お返しはモノやサービスでもよいではないか。もしもそれが介護のサービスなら、そのお返しを受けられなかったということは、ピンコロで人生を終えられたという「ありがたい」ことだ。そういう「お互いさま」の関係にお金を生かせないか、主権在民のネットワークで知恵を出し合おうではないか。
 イメージとしていえば、「政府(中央・地方)」「市場(営利ビジネスの世界)」「非営利社会事業」がそれぞれGDPの三分の一を占めるような経済社会である。そういうところまで、新しい公共の担い手を市民参加型でつくりだす、そういうパラダイムチェンジのチャンスだ。
 昨年十―十二月期の実質国内総生産(GDP)成長率は、年率換算でマイナス12.7%、三十五年ぶりの劇的な悪化となった。危機の震源地アメリカは年率換算で3.8%マイナス、ユーロ圏が6%マイナスに比べてダントツの落ち込み。輸出依存度の高さ(19年度17.9%)が響いた形だ。輸出主導型から内需主導型への転換は八六年の「前川リポート」以来、店ざらしにされてきた課題でもあるが、いよいよ切羽詰ったことになる。これはラストチャンスだ。
 この金融危機を、輸出で儲けたカネを政治家と官僚が地方
  に配分するという旧来の政治経済モデルから脱却する「追い風」に変える。医療や教育、農業を内需の源泉として捉える。あるいは、金融資産を有効に活用するための資本・資産市場の改革や、円建て取引の拡充を図る。環境・エネルギーをキーワードに産業構造を転換する。こういった「チェンジ」へのチャンスとすることが、政権交代の課題である。
 政府が「大きすぎるか」「小さすぎるか」という「我々を余りに長期間、消耗させた使い古しの政治論議」(オバマ大統領就任演説)は、もうやめよう。問うべきなのは、「機能する」「まともな」政府かどうかだ。二十世紀型経済社会モデルの「三周遅れのトップランナー」を再び目指すのか、二十一世紀型の(共生・分権型)経済社会を目指すのか、それを問おう。
 われわれの眼前で進行しているのは、加速する官僚内閣制の自壊過程であり、他方で、うまれつつある主権在民の社会的・政治的基盤、その確立過程にほかならない。このプロセスに参加し、主権在民のネットワークで社会の仕組み、国のあり方を見直し、チェンジしていこう。その小さき知恵と実践的教訓を集積するなかから、新たなリーダーシップを迫り出していこう。

●二十一年度第一回総会を以下のように開催します。
とき 三月二十日(金・祝)
   午前十時より午後六時まで 
ところ 「がんばろう、日本!」
  国民協議会事務所(市ヶ谷)
議題
・情勢/加速する官僚内閣制の自壊過程と、うまれつつある主権在民の社会的・政治的基盤の確立過程
・行動指針/自治分権の社会的基盤を参加型でつくる、主権在民のネットワークの知恵を