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メルマガ♯がんばろう、日本!         №286(22.6.1)
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「がんばろう、日本!」国民協議会
http://www.ganbarou-nippon.ne.jp
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Index 
□ 人権民主主義の国際世論の広がりと、民主主義のための闘争の深化を 
●国際社会を動かす力としての「人権力」とは
●民主主義のための闘争 民主主義との闘争 民主主義からの遁走

□ 総会のお知らせ
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人権民主主義の国際世論の広がりと、民主主義のための闘争の深化を 
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【国際社会を動かす力としての「人権力」とは】

今年の世界経済フォーラム(ダボス会議)では、ロシアによる残虐行為を紹介する展示会が開催された。これまでロシア館として使われていた建物が、「ロシア戦争犯罪館」と名前を変えて会場となった。世界経済フォーラムは今回、ロシアからの参加を認めていない。
 ロシアによる残虐行為が国際刑事裁判所(ICC)で裁かれる「戦争犯罪」に問えるのか、ということについては議論もあるだろう。また、国際刑事裁判所設立条約を受け入れていないロシアをどれだけ裁けるのか、という限界もある。
 しかし、過去の戦争や紛争での残虐行為に対する捜査は、時間がたってから始まっていたのに対し、今回は侵攻とほぼ同時並行で捜査が進んでいる点は画期的といえるだろう。5月、ICCはロシアによって行われた戦争犯罪の疑いを調査するため、創設以来最大の調査団をウクライナに派遣した。

これまでは「戦争だからしかたない」とされ、「数」としてしかあらわされなかった「出来事」が、SNSなどによって個々人の名前とともに世界に明らかにされるようになってきたことは、ロシアの戦争犯罪を問う国際世論の高まりともなるはずだ。たとえ戦争状態であっても守るべき人道規範、人権規範はあるのだということが、改めて国際社会の共通の確認事項となるはずだ。軍事侵攻によって失ったものの大きさを、ロシアは知るべきだ。(マリウポリで壮絶な状況を記録していた女性ジャーナリストは、映像データを脱出する最後の国際メディアの記者に託した。そこには負傷したロシア兵に「私たちはすべての人を平等に扱います」と告げてケアする場面も。彼女はその後ロシア軍に拘束され、消息は不明という。http://apne.ws/CHBUTuw)
 折しもウクライナでは、戦争犯罪第一号となる裁判が行われた。丸腰の老人を射殺した罪で有罪となった被告のロシア兵は、撃ったことは認めたが命令だったと主張、被害者の妻に許しを請う場面もあったという。重要なことは、ウクライナが公開の法廷で、弁護人、通訳、保護措置を講じ、被害者が証言することで、報復ではなく公正な裁判を行っていることだ。被侵略国であり防衛戦を戦っている状況でも、人権規範に則った司法を機能させていることは刮目に値する。
今後ロシアも投降したウクライナ兵を訴追すると考えられるが、どれだけ国際的な人権規範にかなうものとなるのか。国際的な監視、圧力が必要だ。
 今日、戦争は戦場だけで勝敗が決まるわけではない。「国際政治の理想と現実に深い洞察を示したE.H.カーは、軍事力と経済力とともに『意見を支配する力』を国際社会で重要な力としてあげた。今日の国際情勢では、人権に関して適切に判断し行動する『人権力』は、意見を支配する力の中核をなしており、権威主義勢力でさえ人権理念を真っ向から否定することは少ない」(「人権と国家」筒井清輝 岩波新書)。
 
ロシアによるウクライナ侵攻は、国際秩序の根幹をなす「国家主権」と「人権」という二つの規範を踏みにじるものだ。西側がロシアに対して厳しい姿勢を取っているのは、国際社会の規範を維持するためには、侵略がロシアに有利な結果をもたらしてはならないからである。
だが国連決議にもみられるように、「国家主権」の侵害については圧倒的多数の国がロシアを非難しているものの、「西側についてこない国々による、壮大な領域」(遠藤乾・東京大学教授 4/25朝日ダジタル)も広がっている。「ロシアに兵器(購入で)依存している国もあれば、食料や原発、エネルギーで依存している国があります。中国のマーケットが必要な国もあれば、援助を受けている国もあります。西側の説教臭さにへきえきしている国もある」(同前)。

例えば国連総会で、帝国主義によって分断されたアフリカの苦難の歴史を踏まえてロシアを非難したケニアのキマニ国連大使の演説。しかし「演説全文をよく読めば、キマニ大使はロシアを明確に批判しつつ、今回のウクライナ危機でロシアを批判している欧米に対し、『植民地主義や独立後の経済的支配によってアフリカをさんざん虐げてきた西欧が、いまさら人権や非暴力の重要性を唱えることには偽善を感じざるを得ない』と言いたかったことが分かる(白戸圭一 GLOBE+ https://globe.asahi.com/article/14623002)。

こうしたなかで、ロシアのような規範侵害が常態化することをどう防いでいくか。それは「権威主義対民主主義」という二分法では不可能だ。国家主権の侵害は批判しつつも、人権については内政干渉と反発する多くの非欧米諸国に対しても、国際秩序の根幹をなす二つの規範を共有していくためには、人権規範を「権威主義対民主主義」という二分法と結びつける恣意的な運用をせず、その規範性をより高めるようにすることが必要だろう。
例えば多数のウクライナ難民を受け入れているポーランドは司法の独立などの点で少なからぬ懸念があるが、人道支援の負担を分かち合うことなどを通じて、民主制への懸念についても対話のやりかたを変えていけるかもしれない。またウクライナ以外の難民の支援や人道危機に対しても、同じように対処することも必要だろう。

あるいは国連常任理事国が拒否権を発動した場合、総会でその理由を説明することが求められることになったが、これはパレスチナ問題でイスラエルを支持して拒否権を発動してきたアメリカにも今後、求められることになる。ロシア、中国、アメリカのいずれが人権という問題を恣意的に扱っているのか、あるいは普遍性・規範性を高めているかが検証されるだろう。
こうしたことを通じて、人権を「西側が押し付ける価値」としてではなく、国際社会の普遍的規範として共有していく歩みを進めていくことではないか。

また人権は国家によってだけ規範化されるわけではない。「21世紀初頭までの国際人権の歩みは、欧米諸国が中心になって・・・トップダウンで・・・担ってきたという印象が強い。~中略~国際社会がトップダウンで人権を守るというこれまでの考え方ではなく、非欧米諸国も含めた世界中の市民社会がここ数十年の間に身につけた『人権力』を発揮して、ボトムアップ式に・・・人権を守る取り組みを続けていく時代に入ったと考えるべきである」(「人権と国家」筒井清輝 岩波新書)。
香港やミャンマーにみられるように、東アジアにおいても人権や民主主義を求める市民社会が形成されつつある。こうした歩みと〝ともにある〟という立ち位置こそが、求められているのではないか。

【民主主義のための闘争 民主主義との闘争 民主主義からの遁走】

国際法を正面から無視して隣国を蹂躙し、非人道的な戦争を行う大国(国連常任理事国)に対抗するためには、一定の軍事力の強化もやむを得ないところがある。また経済制裁についても、「返り血」は覚悟しなければならない。(「ガスは高いかもしれない。でも自由はお金で買えない」エストニア首相。)だが何よりも必要なのは、そうした関与についての民主的な基盤だ。長期戦になればなるほど、そのための合意形成においては民主主義が試される。
民主主義の世界的な後退が指摘されて久しい。今や民主主義はクーデターや革命によって死ぬのではなく、選挙を通じて死ぬと言われるように、形式的には民主制であっても「民主主義のための闘争」なのか、「民主主義との闘争」なのか、はたまた「民主主義からの遁走」なのかを問い、検証する必要がある。

ウクライナ侵攻以前から始まっていた世界的なインフレに加えて、戦争の長期化による経済的打撃は、各国における政治的不安定化やポピュリズムの台頭、民主主義の弱体化につながる可能性がある。
民主主義はその担い手たる主権者を不断に生み、育て、次世代にリレーすることが伴ってこそ、自国第一主義やポピュリズム、排外主義、歴史修正主義など、民主主義を「内から」死に至らしめるもの(社会的分断)と戦うことができる。
プーチンが大統領になったのは2000年。それから「たった」20年でロシアはこうなった。これは「他人事」ではない。民主主義のための闘争は、どう問われているのか。

 「(中国に代表される)政治的資本主義への移行に拍車がかかるとしたら、それは若者たちが、多かれ少なかれ同じ政策を続ける主流政党にますます嫌気がさして、人びとの頭のなかから政治を消し去ることにある。そしてそれがますます容易になるのは、国内の政治に人びとが幻滅し、無関心がいよいよ広がったときなのだ」(ブランコ・ミラノヴィッチ「資本主義だけ残った 世界を制するシステムの未来」みすず書房)。
 投票率50パーセントという政治的無関心の広がりは、私たちにどんな帰結をもたらしているのか。

例えば「政府が新型コロナウイルス対応へ用意した『コロナ予備費』と呼ばれる予算の使い方の不透明感がぬぐえない。国会に使い道を報告した12兆円余りを日本経済新聞が分析すると、最終的な用途を正確に特定できたのは6.5%の8千億円強にとどまった。9割以上は具体的にどう使われたか追いきれない。国会審議を経ず、巨費をずさんに扱う実態が見えてきた」(日経4/22)。
さらに物価対策とした2022年補正予算も、総額2.7兆円のうち1.5兆円は物価高対策で使った予備費の埋め戻しにあてるという。憲法は政府支出に国会の事前議決を義務づけている。予備費の計上はあくまで例外的な措置として認められているにすぎない。こうした政府による予備費の乱用ともいえる事態は、政府への「白紙委任」が常態化する危険性があり、財政民主主義の根幹を揺るがすものではないか。

 あるいはウクライナ侵攻や中国の軍拡、北朝鮮の核・ミサイル開発などに対して、「敵基地攻撃能力」や「核共有」といった言葉が政治家の間で飛び交っている。政府は「敵基地攻撃」という呼称を公明党に配慮して「我が国への武力攻撃に対する反撃能力」と言い換えた。また自民党の提言では、攻撃目標についてミサイル基地に限らず「指揮統制機能等も含む」としている。「専守防衛」という建前を空文化させつつ「ゴールポストを動かす」というやり方は、本質的な議論を避け、国民を欺くものといえる。平和主義や国際協調といった規範を現実の中にどう貫いていくか、その苦闘に対する無関心は民主主義に対する無関心にも通じるのではないか。

 (「――議論を深めるためには。
 欧米では大学や研究所や政治コミュニティーなどの複数の場で議論を深化させるのが一般的ですが、日本は軍事論の専門家の裾野が限られ、集う機関も少ない。機関同士の交流も限定的です。軍事論を議論し、相互に批判し合えるような人材を育てなくてはなりません。
 防衛研究所の研究員がメディアで引っ張りだこですが、懸念もあります。社会科学ではよくある話ですが、彼らが国や防衛省の人間だからといって100%正確な分析をしているわけではないと思います。彼らの分析が妥当かどうかチェックは欠かせないでしょう。加えて彼らと異なる見解を持ち、分析をする人がいるのかどうか。
 裾野の問題と関わりますが、今まで日本が軍事論を軽視してきた結果を見ているのかも知れません」。 佐藤丙午・拓殖大学教授 5/27朝日)
社会の分断も情報戦に機会を与えるなど、民主主義を弱体化させる。
トランプが当選した2016年の大統領選挙でも、ロシアによるフェイクニュースなどが少なからず影響をおよぼしたと言われている。アメリカにおける党派的対立と社会的な分断はより深刻さを増しており、民主主義のための戦いの基盤は脆弱だ。今秋の中間選挙の結果いかんではトランプ再登場の可能性さえ取りざたされる。
また「西側の説教臭さにへきえきしている」アフリカでは、元々あった反西欧感情をロシアの情報戦が煽り、また政治エリートがそれを利用して政権を維持するという構図があるという(前出 白戸)。

一方で台湾では、2020年の総統選・立法委員選挙において、中国による偽情報が必ずしも政治的分極化をもたらさなかったとの研究がある(松本充豊
 https://www.koryu.or.jp/Portals/0/images/publications/magazine/2021/3%E6%9C%88/2103_04matsumoto.pdf)。
それによれば、台湾における社会的亀裂は階層や人種をベースにしたものではなく、国家アイデンティティーをめぐるもので、異なる国家アイデンティティーを持つ人が同じネットワークに混在していることから、SNS利用者は異なる政治的意見に触れる機会もあり、情報の多様性が分極化のレベルを引き下げることにつながっているという。
さらにこの間の民主化のプロセスに加え、民主的な制度でコロナ感染拡大を抑え込んだ経験から、民主主義体制や台湾の民主主義のあり方に対する信頼度が大幅に増加していた。つまり民主主義をめぐって世論が分裂していなかったため、民主主義を否定する偽情報は社会を分極化する効果を持たなかったという。

政治的立場が異なっても民主主義に対する信頼を共有できる――そういう民主主義を鍛えたいものだ。

(「日本再生」517号 一面より)
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□第10回総会【会員限定】のご案内
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第10回総会【会員限定】を下記のように開催します。
ぜひご参加ください。

第九回大会第10回総会
6月5日(日) 13時より17時(予定)
オンライン(ZOOM)

「無関心層に届く・届ける・伝える」とは~選挙を変える活動の総括から(議題・仮)
(この間の「選挙を変える」活動の経験知を共有知へ 「一灯照隅」参照)

●申し込みは
ishizu@ganbarou-nippon.ne.jp まで
6月3日までに
6月4日に申し込みのあったアドレスへZOOMのURLを送ります。


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石津美知子
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