電子瓦版(転送はご自由にどうぞ)
━・━・━・━・━・━・━・━・━・━・━・━・━・━・━・━・━ 
メルマガ♯がんばろう、日本!         №258(20.2.3)
━・━・━・━・━・━・━・━・━・━・━・━・━・━・━・━・━
「がんばろう、日本!」国民協議会
http://www.ganbarou-nippon.ne.jp
==================================
Index 
□ 破局を迎えつつある「時間稼ぎ」の資本主義(新自由主義)、
問われる民主主義の復元力とその基盤づくり

● 気候危機が問う民主主義の持続可能性   
● 民主主義の復元力を支える社会的経済的基盤をどうつくりだしていくか

□囲む会のお知らせ

□映画のご案内

==================================
破局を迎えつつある「時間稼ぎ」の資本主義(新自由主義)、
問われる民主主義の復元力とその基盤づくり  
==================================

●気候危機が問う民主主義の持続可能性
 
今年のダボス会議にむけて発表されたグローバルリスク報告書では、今後起こりうるリスクの上位5つがすべて気候・環境関連で占められた。影響度の上位5リスクも「大量破壊兵器」を除いて気候・環境関連。資本主義の「中心」ともいえるダボスでさえ、気候危機はもはや「経済活動の土台そのものへの脅威」と認識されつつある。COP25で化石賞を受賞し、いまだに「経済か環境か」という議論が幅を利かせている日本は「ガラパゴス」というべきか。
気候危機はいまや「将来のリスク」ではなく、私たちの生存を脅かす「今そこにある危機」であり、グレタさんが主張するように「現在のシステムのなかに解決策が見つからないなら、システムそのものを変えるべき」ところにきている。一万一千人を超える科学者が支持した「気候危機の警告」という調査報告は、過去四十年間のデータに基づいて、化石燃料から再エネへの転換や、GDPの成長や富の追求ではない経済への転換など、経済成長を前提としたシステムそのものの転換を提言している。

パリ協定は、世界の平均気温を「産業革命前と比較して2.0℃以内に収める」ことを目標としていたが(ただし今のところパリ協定を守っても3.7℃上昇!)、ICPP(気候変動に関する政府間パネル)が2018年にまとめた報告書では、2.0℃上昇でも干ばつや海面上昇、食料不足など破壊的な経済・社会的影響を及ぼすとされている。こうした「不都合な真実」は、このところの異常気象や森林火災がもたらしている経済・社会的影響の大きさからも実感できるはずだ。

破局的な状況を避けるためには1.5℃が上限とみなされているが、このままでは早ければ2030年にもその上限に達してしまう。1.5℃という目標を達成するためには、2050年までに純排出をゼロにしなければならない。このような劇的な削減のためには「気候危機の警告」で提言されているような、経済成長を前提としたシステムそのものからの転換が不可避ということだ。「経済と環境の両立」ではなく、持続不可能なシステムから持続可能なシステムへの転換―転轍こそが問われている。

気候変動はヨーロッパを中心に選挙の争点となりつつある。アメリカでも民主党員の八割が温暖化を最優先課題に挙げている。アムネスティ・インターナショナルの調査(22カ国の18~25歳1万人以上を対象)では、23の課題リストから主要な5つを選ぶ設問で、回答者の41%が選んだ最も多かった課題は「気候変動」だった。これは世界の政治指導者たちに対するウェイクアップ・コールだと言われている。「今だけ、自分だけ」の消費者民主主義では「ガラパゴス」さえ維持できない。

持続可能なシステムへの転換は、気候変動対策にとどまるものではない。気候危機は構造的な不公正とリンクしている。昨年のクレディ・スイスの発表によれば、世界人口の0・9%が世界の富の43・9%を所有するとのこと。同じようにCO2排出量にも国や階級、企業によって圧倒的な差があるが、総じていえば排出量が少ない人々―若い世代や未来の世代、そして途上国や先進国のなかでも社会的に弱い立場の人々のほうが、排出量の多い豊かな人々よりも圧倒的に気候変動の被害に晒されるということだ。

 持続可能なシステムへの転換は、こうした不公正―権力・従属関係を正すことでもある。佐々木寛氏は「植民地主義」という表現で以下のように述べている(「日本再生」488号より)。
「これに関連してもうひとつ、私が重要だと思っているのは、未だに残る「国内植民地主義」の問題です。これは格差社会ともつながるのですが、新潟では例えばエネルギー植民地主義、沖縄なら安全保障植民地主義の問題です。つまり中央のために、「最大多数の最大幸福」のために、お前たちは犠牲になれと。この考え方を、あえて植民地主義と呼びたいと思います。自分たちだけが生き残ればいいとか、白人だけが豊かになればいいとか、こういう論理で民主主義をやっていくと植民地主義を増長させることになります。
 私が最近、「エネルギー民主主義」と言っているのは、この話に関連します。自分が使っているエネルギーが他者をどれだけ犠牲にしているか、ということを気にしないといけない社会になっている。市民社会や民主主義というものが、コロニアリズムからどれだけ卒業できるかということが、二十一世紀の課題だと思うのです。」

「よく原発は地元の経済にプラスになるといわれますが、それは神話、もっと言えば東京の人が作った神話です。新潟日報という地元紙が調査した結果、原発は地元経済に貢献していないことが明らかになっています。(例「崩れた原発『経済神話』」明石書店)
 一部のエリートや権力者にお金がいくのは確かです。でも地域経済にある種の依存性が生み出されますし、地域が本当に発展するかといえばまったくそんなことはない。しかも四十年たって廃炉ということになれば、その後はもはや永遠のマイナスでしかない。地域の一部の人を、しかも一時期だけ潤わせることはできても、地元の持続可能な経済には貢献しないというのが原発についての正確な認識です。
 ではどうするか。自然エネルギーは世界中どこにでも身近にあるし、タダで手に入る。それを利用して、自分で使うエネルギーを自分で作る。地域がそうなっていくと、自治が発達する。自然エネルギーによるエネルギー・デモクラシーが大事なのは、それが地球温暖化問題への対応というだけでなく、民主主義の新しい下部構造を作るからです。民主主義の制度を支えるポスト・コロニアルな下部構造を作っていく」

 植民地主義といわれるような構造的不公正の持続不可能性―破局が見え始めているときに、「今だけ、自分だけ」の消費者民主主義で逃げ切れるのか。自治の当事者性と自己決定力を鍛えることこそが問われている。


●民主主義の復元力を支える社会的経済的基盤をどうつくりだしていくか

「『我々の知っている資本主義は死んだ』。21日のダボスでの討論会で、顧客情報管理の大手、米セールスフォース・ドットコムのマーク・ペニオフ最高経営責任者(CEO)が声を上げた。企業は株主への利益の最大化にばかり目を奪われ、『不平等と地球環境の緊急事態を招いた』と語った」(日経1/23)
冷戦終焉からの三十年は、グローバル化×新自由主義×デジタル化と表現できるだろう。その結果、気候危機と「1%対99%」といわれるような圧倒的な格差が、社会の持続可能性そのものを脅かすまでになっている。資本主義と民主主義の双方が制度疲労を起こしており、そこから生じる社会の分断にデジタル化が拍車をかけている。

「歴史をみれば、民主主義体制が安定し、体制として完全な正当性を得ていた時期は例外的なものだということがわかる。ハンチントンが指摘したように、19世紀半ばの民主化は20世紀前半のファシズム、コミュニズムの台頭をみたし、戦後にも東西冷戦と南米・南欧の権威主義政権が存在していた。それでも、戦後に西側諸国の政治体制が安定的に推移し、体制として定着したのは、戦前の急進的な政治勢力が正当性を失い、変わって持続的な経済成長とその恩恵に預かった中間層の存在があったからだ。中間層が社会で多数派となったのは人類史上初めてのことだ。
ブルジョワ勢力に代表される資本主義(リベラリズム)と、コミュニズムとファシズムが旗手たろうとした民主主義(デモクラシー)が衝突し、戦争にまで至ったのが第二次世界大戦の経験だった。戦後はこの両者を、大きくなった政府が媒介した。しかしガバナンスの司令塔が不在のまま推移している現状では、資本主義と民主主義が再び衝突するようになった。
グローバル資本主義は前者の代表であり、ポピュリズムは後者の代表だろう。両者を強権的手法でもってすり合わせようとしているのが先の「競争的権威主義」の国々ということになる。これは冷戦に変わる新たな体制間競争の呈をなすことになるかもしれない」(吉田徹・北海道大学教授 「日本再生」488号)。

「競争的権威主義」とは、普通選挙が行われていても特定の政党や指導者が権力を独占し続ける体制を指す。普通選挙は行われていないが、「人民民主主義」と「グローバル資本主義」を強権的手法ですり合わせているという点で、中国はひとつのモデルといえるだろう。効率的な統治―決められる政治!―は、その「強み」と言えるかもしれない一方、異論や多様性、多元性を排除した中央集権は、今回の新型肺炎への対応が後手に回ったことにも見られる脆弱さを内包する。

 「強力な政権が常に『正しいこと』を行うなら最も効率的な政治体制だろう。しかし未来は誰にも正確に予測できない以上、指導者は間違える可能性があり、誤りを修正する仕組みも必要だ。中国のような独裁制は効率的かもしれないが、自己修正力においては民主制がまさる。それこそが『法の支配』や『権力の分立』の強みである」(中西寛 12/15毎日)
民主主義は単なる多数決ではないし、選挙独裁でもない。必要なのは、グローバル資本主義・新自由主義が求める効率のよい統治ではなく、民主主義の復元力や自己修正力だ。それを支えるのは社会―私たち―の自己統治(自治)・自己決定力にほかならない。

「私たちは確かに、当時民主化を先導した国でした。今や、EUの中で脱民主化を先導する国になってしまいました。民主化でせっかく立派な制度を築いたのに、社会がそれを支えられなかったのです」(マイテニ・バラジュ ブダペスト大学准教授/国末憲人 Globe+ 1/26)
民主主義の復元力や自己修正力を支える社会的経済的基盤を、どうつくりだしていくか。社会政策もここから考えていく必要がある。言い換えればそれは、私たちがどんな社会の価値観を選ぶのか、ということだ。例えばこのように。

「…スーパーの非正規雇用で働く勤続一〇年のシングルマザーが、『昨日入ってきた高校生の女の子となんでほとんど同じ時給なのか』と相談してきた…あなたならどう答えるか。…私が回答例を書けば、以下の三つが考えられる。
①賃金は労働者の生活を支えるものである以上、年齢や家庭背景を考慮するべきだ。だから女子高校生と同じ賃金なのはおかしい。このシングルマザーのような人すべてが正社員になれる社会、年齢と家族数にみあった賃金を得られる社会にしていくべきだ。
②年齢や性別、人種や国籍で差別せず、同一労働同一賃金なのが原則だ。だから、このシングルマザーは女子高校生と同じ賃金なのが正しい。むしろ、彼女が資格や学位をとつて、より高賃金の職務にキャリアアップできる社会にしていくことを考えるべきだ。
③この問題は労使関係ではなく、児童手当など社会保障政策で解決するべきだ。賃金については、同じ仕事なら女子高校生とほぼ同じなのはやむを得ない。だが最低賃金の切り上げや、資格取得や職業訓練機会の提供などは、公的に保障される社会になるべきだ」(小熊英二「日本社会のしくみ」)

「努力すれば報われる」ということが実感できるとは、どういう社会なのだろう。あるいは「自分の参加で社会や政治が変わる」と実感できるとは、どういうことなのだろう。雇用、教育、福祉といった人生設計の基本にかかわる「社会のしくみの束」を、消費者民主主義(今だけ、自分だけ)ではなく、持続可能性から考えるとはどういうことだろう。
そうした当事者性を涵養するうえで重要なのが、自治の現場である。それは地域に限定されるものではなく、「課題を共有する」ところにうまれる場にほかならない。

「国家をはじめとする既存の政治的コミュニティそのものを否定するのではなく、ローカル・コミュニティの〈自治〉が自在に織りなすネットワークによって、既存の政治構造にボトムアップの意思決定のプロセスを実現する」(佐々木寛 世界1月号)。
 課題を共有するところに生まれる自己統治(自治)の力から、民主主義の復元力を。

(「日本再生」489号 一面より)
==================================
 囲む会のお知らせ 
==================================
□第207回 東京・戸田代表を囲む会
 「基礎的自治体と広域連携のあり方について」
 2月3日(月) 1845から
 ゲストスピーカー 幸田雅治・神奈川大学教授
 「がんばろう、日本!」国民協議会 事務所(市ヶ谷)
 同人1000円  購読会員2000円

□第209回 東京・戸田代表を囲む会
 「安倍政治をどう検証し、対峙するか」(仮)
 3月10日(火) 1845から
 ゲストスピーカー 小川淳也・衆議院議員
 「がんばろう、日本!」国民協議会 事務所(市ヶ谷)
 同人1000円  購読会員2000円

□第40回 戸田代表を囲む会in京都
 「『地域から考える』とは~京都を例に」(仮)
 2月15日(土) 1830から
 ゲストスピーカー 岡田知弘・京都大学名誉教授
 ハートピア京都 第5会議室
 参加費 1000円(学生 500円)

==================================
総会のお知らせ  民主主義の復元力をどう準備するか
==================================
□第208回 東京・戸田代表を囲む会
 「民主主義の復元力をどう準備するか~総会にむけて」
 2月22日(土) 1300から1800
 戸田代表の問題提起と討議
 「がんばろう、日本!」国民協議会 事務所(市ヶ谷)

□第九回大会 第二回総会
 5月9日(土) 1000から1800
「がんばろう、日本!」国民協議会 事務所(市ヶ谷)

==================================
外交・安全保障シンポジウム
==================================
4月11日(土) 1300から1700
TKP御茶ノ水カンファレンスセンター ホール2B
中西寛・京都大学教授  李鍾元・早稲田大学教授
川島真・東京大学教授  大庭三枝・東京理科大学教授
吉田徹・北海道大学教授
参加費 2000円

==================================
映画のご案内
==================================
●「プリズン・サークル」

私たちの社会が暴力や貧困から回復するために何が必要なのか・・・

「島根あさひ社会復帰促進センター」は、官民協働の新しい刑務所。警備や職業訓練などを民間が担い、ドアの施錠や食事の搬送は自動化され、ICタグとCCTVカメラが受刑者を監視する。しかし、その真の新しさは、受刑者同士の対話をベースに犯罪の原因を探り、更生を促す「TC(Therapeutic Community=回復共同体)」というプログラムを日本で唯一導入している点にある。なぜ自分は今ここにいるのか、いかにして償うのか? 彼らが向き合うのは、犯した罪だけではない。幼い頃に経験した貧困、いじめ、虐待、差別などの記憶。痛み、悲しみ、恥辱や怒りといった感情。そして、それらを表現する言葉を獲得していく…

《監督のメッセージ》
刑務所が舞台ではあるけれども、刑務所についての映画ではありません。 犯罪者と呼ばれる人が主人公ですが、彼らだけの話ではありません。 他者の本音に耳を傾けることで、言葉を、感情を、人生を取り戻していく。 彼らも、私たちも、そこからしか出発できない。 犯罪をめぐる、四半世紀あまりの取材を通して実感してきたことです。 彼らの言葉に、じっと耳を傾けてみてください。 今まで見えなかった何かが、見えてくるはずです。

シアター・イメージフォーラム(渋谷)ほかで公開中
https://prison-circle.com/index.php?id=theater

●淪落(りんらく)の人

香港中を涙と希望で包んだ感動作
事故で半身不随になった中年男とフィリピン人家政婦との物語
主演は、雨傘運動を支持したために俳優活動を封殺された香港映画の名優、アンソニー・ウォン。

「この映画は、かつての香港映画にはなかったテーマを扱っています。こういう企画には、まずお金が集まらなかったでしょう。私は、新しい時代の、新しい現実を見つめる若い世代に、ゼロから新しい香港映画界を作ってほしいと思っているんです」 と、この映画に賭ける思いを語っている。

『淪落の人』自由を失くした香港映画の未来のために。デモ支持で封殺された名優アンソニー・ウォンの思い
https://www.huffingtonpost.jp/entry/story-movie-hongkong_jp_5e3271e0c5b69a19a4a9fc1c?ncid=other_twitter_cooo9wqtham&utm_campaign=share_twitter

映画のサイト
http://rinraku.musashino-k.jp/
新宿武蔵野館ほかで公開中
==================================

-- 石津美知子
「がんばろう、日本!」国民協議会
http://www.ganbarou-nippon.ne.jp