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メルマガ♯がんばろう、日本!         233(17.12.25)
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「がんばろう、日本!」国民協議会
http://www.ganbarou-nippon.ne.jp
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Index 
□「時間かせぎ」の政治の閉じかた、
 「ともに引き受けて前へ進む」政治の立ち上げかた

●「時間かせぎ」が破綻するその先に、何を準備するか
●第三次産業革命ならびに戦後秩序の転換期というパラダイムシフト 
そこにおけるガバナンスの転換とは 

□「囲む会」のご案内 
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「時間かせぎ」の政治の閉じかた、
「ともに引き受けて前へ進む」政治の立ち上げかた
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●「時間かせぎ」が破綻するその先に、何を準備するか

 幕が降りつつある平成の時代は、「失われた○○年」と言われるだろう。失われたのは、「右肩下がり」の時代にフィットする政治経済社会へ転換するための機会であり、条件づくりだ。〇九年の政権交代は、この転換への挑戦と失敗ともいえるだろう。3.11はこの転換を先送りし続けることへの「警告」であると同時に、この転換を「新しい現実」として自らの手でつくりだそうとする人々の背中を押した。
 たしかに国レベルでの制度転換は、いまだ遅々として進んでいないとはいえ、地域にはすでに模索の数々はあり、そこでの教訓もある。「失われた○○年」の一方で、右肩下がりへの転換を自分事として考える(考えざるをえない)人々が登場しつつある今、それを活かすことができるかは、立憲民主主義の言論空間をつくりだせるかにもかかっている。

 「失われた○○年」は、予見しうる破局を先送りしようとする「時間かせぎ」の政治でもあり、「不都合な真実」を見たくない人々と、「新しい現実」をつくりだそうとする人々とのせめぎあいでもあった。だが「時間かせぎ」の政治を続ければ続けるほど、「このままでも明日は来るけれど、その先に未来はない」というところから、「このままでは、明日さえ見えない」ところへ、社会の底が抜けつつある。

 上場企業の業績が「過去最高」といわれる一方、61%の世帯が平均所得以下、年収200万以下の世帯が20%と格差は拡大する一方。ユニセフは日本では子どもの16%が深刻な貧困状態にあると、懸念を表明。働いているのに相対的貧困状態にいる人の割合は13・3%と、OECD加盟国平均の8・3%を上回る。こうした格差や貧困は、仮にアベノミクスが成功しても解決できる問題ではないことは明らかだ。

 失われたのは「成長」ではなく、社会的な連帯だ。子育て支援の充実といえば、無償化、待機児童対策、保育士処遇改善などが天秤にかけられる。「どちらが大事か」の議論は、必要としている人々同士の分断に容易に転じさせられる。あるいは高齢化×社会保障費増大の議論は、容易に世代間対立に変換される。高齢者介護の問題は現役世代の仕事や暮らしに直結するにもかかわらず。
 ボリュームゾーンの団塊世代が後期高齢者になり、その介護の負担が現役世代にかかってくるようになると、右肩上がりを前提に家庭や家族で社会保障をなんとか支えてきた構造も、いよいよ底が抜けるのではないか。(子どもの養育と親の介護というダブルケアの問題。40代の非正規労働者と親の介護問題。親の高齢化で家庭内に抱えきれなくなる福祉の問題など。)

 低所得層の消費が生活保護世帯以下だとして(その計算自体の妥当性も疑わしい)、生活保護費を引き下げる政府の下で、憲法25条(「健康で文化的な最低限度の生活」)を実現することなど、できるのか。
 「切り下げ」のツケは、回りまわって社会全体の活力を疲弊させる。日本の労働生産性はOECD35カ国中20位、G7では最下位。国際競争力も二年連続して後退して9位となった。国際競争力にはグローバル資本にとっての利便性という視点も含まれるが、自由でイノベーティブな発想や試みが多様に生まれる社会の活力は、「このままでも明日は来るけれど、その先に未来はない」どころか、「このままでは、明日さえ見えない」社会から出てこないことは明らかだ。

失われたのは「成長」ではなく、社会的な連帯だ。「なぜ税金を納めるのか」、「なぜ投票に行くのか/行かなければならないのか」、「憲法は何のためにあるのか/何を守るのか」etc。その根底には、「私たちはどういう社会を作りたいのか」「どういう社会で生きていきたいのか」という問いと、それをめぐる一定の合意が求められるはずだ。

 「若い人たちが年金を払うのが嫌だというのは、今の政府システムの中で公的に保証されているはずのものは、そのうち保証されなくなるんじゃないかということだと思います。若い世代は当面は圧倒的に支える役割ですから、将来の保証がないなら取られ損だという気分がしてくるわけです。
聞くところでは、北ヨーロッパでは負担率はもっと大きいけれど、自分で投資をしていると損することもあるが、税金で納めておいたら自分が老いた時にはちゃんと返ってくるから、そっちの方が安心であると。個別の資産については、経済情勢によって得をする時も損をする時もあるが、長い目で国民全体でならしたら安定的で持続できるだろうと。そういう信頼が根本にあるのではないでしょうか。
一方日本では、政策の消費者としての国民からすると、安上がりにしてくれることが最もよい、というグループの人がかなりの規模を占めています。〜中略〜小さな無駄さえ『そういう小さな無駄を一生懸命撲滅していくことによって、何とかみんながもう少し安心できるようにしましょう』ということに必死にならなきゃいけない。このこと自体、システムが危機の状態にあることを示しているのではないか、という気がしています。
これをどう逆転して、将来のための投資に税を使うことによって、結果的にみんなが長い目でより安心できるようにするという感覚を、どこからどう作っていくかということが問われていると思っています」(廣瀬克哉・法政大学教授 10/21シンポジウム 463号)

「私たちはどういう社会を作りたいのか」、そのために「どういう政府をつくるのか」―政治選択とはこういうことだろう。自治の現場では、そこにつながる当事者性が涵養されつつある。その糸口を、「より大きな意思決定」における当事者性、政治的有用性へと、どのようにして結びつけていくか。「時間かせぎ」が破綻するその先に準備すべきものは、こうした「主権者を引き受ける」人々の連帯ではないか。

●第三次産業革命ならびに戦後秩序の転換期というパラダイムシフト 
そこにおけるガバナンスの転換とは 

 「失われた○○年」のツケは、世界に冠たる技術大国でも急速に顕在化している。世界一安全とされる新幹線で台車の部品が破断寸前のまま、異音に気づきながら3時間にわたって走行するという事態。三菱マテリアル、東レでもデータ改ざんが発覚、日産、スバルでは検査不正が常態化していたなど、「ドミノ」が止まらない状況だ。
 いずれも技術的な問題とは別に「薄々は知りながら」「とりあえず」という、「時間かせぎ」の時代にしみついた体質の問題があるのではないか。これでは技術革新を生み出すような、自由でイノベーティブな組織体質が失われるのは当たり前だ。

 「失われた○○年」の間、日本の大企業は時代の変化に対応するイノベーションではなく、人材の焼畑を続け、政府の補助金に頼って「とりあえず、自分が社長の時はつじつまが合うように」とやってきた。その行き着く先は、リニアでの談合やぺジー社(スーパーコンピューター開発ベンチャー)による助成金詐欺のような「国家(税金)の私物化・たかり」だろう。国家戦略特区にも同様の構図が伺える。

 ここでも「時間かせぎ」の破局が近づいている。ドイツ・メルケル首相のブレーンで「第三次産業革命」の到来を予言してきたジェレミー・リフキン氏は日本に対して、こう警告する。
 「エネルギーやクルマなどの輸送手段をインターネットにつなぎ、効率性や生産性を極限まで高めるのが第三次産業革命です。〜(それによって)シェア経済が台頭する。EUと中国が国家戦略として取り組むのに対し、日本はこのパラダイムシフトに対して計画を持っていません。この状況が続けば〜日本は2050年までに二流国家になってしまいます」(日経ビジネスオンライン12/14)

 リフキン氏は、日本の対応が遅れているのは「原子力から脱却できないことにある」と指摘する。東芝の体たらくは、その典型といえるだろう。
 「(石油と原子力をエネルギー源とする)第二次産業革命の成果はいま、衰退状態にあります。しかし、この中央集権的な通信や、原油と原子力に依存したエネルギー、内燃機関を使う輸送手段という第二次産業革命のインフラに接続されている限り、生産性はもう天井を打った〜さらにそれがもたらした気候変動によって、人類は危機にさらされている。〜中略〜経済の新しいビジョンに必要なのは炭素を排出しない計画ということになります」(同前)

こうした方向転換を促進するのは、炭素に価格をつける(炭素税、排出量取り引きなど)政策であることは、すでに明らかになっている。炭素にしっかり価格付けをしているところほど炭素生産性は高い、という関係もかなり明瞭に見られる。さらに言えばそれが、経済のソフト化―高付加価値化にもつながっていると推測される。
「ここで言いたいのは、平均実効炭素価格が高い国では、なぜか知的財産生産物の形成が進んでいる、その相関関係が見られるということです。〜あえて因果関係的に解釈すると、おそらくカーボンプライシング、炭素税を入れていくと、エネルギー集約型の伝統的なものづくりは経済的に不利になっていきます。そうであるなら発想の転換をして、もっと付加価値の高い生産、ここで言う知的財産生産物形成の世界に移っていくということを、経営者として考えざるを得ないだろうということです。〜日本では炭素価格も低ければ、一人あたりGDPも低いという現状にあるわけです」(諸富徹・京都大学教授 460号)

ここでのパラダイムシフトは低炭素・脱炭素化であり、中央集権型から自立分散型ネットワークへの転換であり、人への投資ということだろう。そしてそうなればなるほど、草の根イノベーションの力が重要になる。よく言われるポートランドの事例は典型的だろう(川勝健志・京都府立大学准教授 本号参照)。住民主導のまちづくりがイノベーティブな風土を産み、それに惹かれて集まる人々がさらにイノベーティブな産業を集積し、市民自治が一段と促進されるという、地域内の市民自治と経済、産業自治の循環が生まれる。

 産業革命が単なる産業構造の転換にとどまらないように、ここからは新しい社会ガバナンスの転換―民主主義の深化が伺える。
 「私は、各地の地域再生の例やサスティナブルな地域づくりを調べていますが、そこでは疲弊している地域を活性化しようというだけではなくて、構造的に麻痺してしまった現代社会の統治のあり方(福祉国家のガバナンス)に対して、地域から新しい社会経済のガバナンスの仕組みを実験的に打ち出しているのではないか、地域の取り組みでも大きな社会転換の中身を含んでいるのではないか、という思いを最近強くしています。
何がこれまでと違うかと言うと、一つは地域を単位としたガバナンスということです。そして、誰かを選んで意思決定に間接的に関わるというより、自らが地域の何らかの事業に直接関わる形で参加する形態。また、ビジネスと社会的課題の境目が非常に曖昧で、そのハイブリッドな事業形態を通じて地域の環境のストックを作りかえていこうとする、そういうガバナンスです。その担い手として社会的企業と呼ばれる存在があり、これも重層性、多様性に満ちていますが、その社会的企業が絡み合った生態系こそが新しいガバナンスなのかな、と思っています」(佐無田光・金沢大学教授 463号)。

ガバナンスの転換は、国際関係においても急務だ。世界第一位の米国と第二位の中国が、ともに国際秩序を自国に都合のよいように変えようとしているときに、必要なことは「どちらにつくのが有利か」ではなく、中級国のネットワークで(自由や民主主義、人権を普遍的価値とする)戦後秩序を維持しつつ、新しい事態に対応していくことだ。
北朝鮮問題と中国、トランプのアメリカに同時に向き合わなければならない日本にはハードルはなかなか高いが、自由貿易や温暖化対策など安全保障以外にも、一国で壁を築くのではなく国際協調で対応すべき課題は少なくない。

 「日本などの中級国にとってのベストシナリオは、こうした多国間の枠組みを維持し、進めていくことで、アメリカや中国もそういう枠組みに近づいてくるということです。〜中略〜中級国にとって最大のリスクは、軍事紛争です。軍事的な紛争になったときには、中級国が束になってもアメリカ一国の軍事的な能力には及ばない。〜中略〜その意味で、中級国にとっては軍事紛争はできるだけ回避したい」(中西寛・京都大学教授 本号)

 国際秩序が歴史的に変容する時代には、いくつもの変数に対応しなければならない。このときに「この道しかない」や「○○はけしからん」といった短絡的な思考をとれば道を誤る、という歴史の教訓を、今と将来に生かすことができる主権者へ!
 中国の台頭がおそらくピークを迎え、日本は高齢化の急坂にさしかかるであろう2020年代半ばを見すえ、「時間かせぎ」の政治をどのように閉じ、「ともに引き受けて前へ進む」政治をどう立ち上げていくか。ここからポスト安倍、オリンピック後にむけた舞台を、準備しよう。

「日本再生」464号一面より
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2018年 東京・戸田代表を囲む会
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□第181回
「市民政治の育てかた 観客民主主義から参加型民主主義へ」
1月19日(金) 1845から
ゲストスピーカー 佐々木寛・市民連合@新潟共同代表 新潟国際情報大学教授

*2016参院選、県知事選、2017衆院選を「市民と野党の共闘」で戦ってきた市民連合@新潟。その取り組みの教訓をどう活かし、共有していくか。
参照:「日本再生」457号インタビュー 

□第182回
「『すべて国民は個人として尊重される』(憲法13条)って、どういうこと?」(仮)
2月5日(月) 1845から
ゲストスピーカー 山本龍彦・慶應大学教授

*立憲主義の基本原理である「人権」「個の尊重」は、実現されているのか。憲法改正は今ある憲法を守ってから言え=立憲主義を支える意思を、9条以外からも作り出すとは。
参照:「日本再生」461号インタビュー 

いずれも
会場 「がんばろう、日本!」国民協議会 事務所(市ヶ谷)
会費 同人 1000円  購読会員 2000円


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石津美知子
「がんばろう、日本!」国民協議会
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