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「がんばろう、日本!」国民協議会
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Index 
□民主主義は単なる政治のやり方ではない。
 すべての人間を個人として尊厳な価値を持つものとして取り扱おうとする心、
 それが民主主義の根本精神である。

 ●衰退途上国か、課題先進国か
 ●「自分の人生や生活に影響を及ぼす問題について、誰にでも発言する権利が平等にある」
  を当たり前に

□「囲む会」のご案内 

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民主主義は単なる政治のやり方ではない。
すべての人間を個人として尊厳な価値を持つものとして取り扱おうとする心、
それが民主主義の根本精神である。
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【衰退途上国か、課題先進国か】

 10月26日に公表された2015年国勢調査の確定値は、われわれの社会がどうなっているかを否応なく示している。人口減少は前提として、75歳以上の人口が初めて14歳以下の子ども(1588万人)を上回り、外国人労働者は前回(2010年)より10万人増の175万人と過去最高を更新。
 85年から30年間で75歳以上の人口は3・4倍に増加、14歳以下は4割減と少子高齢化に歯止めがかかっていない。14歳以下は人口の12・6%、世界最低の水準まで低下している。
 ひとり暮らしの増加で、世帯数は5344万と過去最高を更新。単独世帯は34・6%を占め、男性では25〜29歳、女性では80〜84歳が最も多い。65歳以上の6人に1人がひとり暮らしだ。

 少子化や単独世帯の増加に端的に現れているのは、生活保障や福祉を「家族」と「企業」に委ねてきた社会が、もはや成り立たなくなっている現実だ。それはまた、こうした社会の変容に対応してこなかった「失われた20年」の帰結でもある。
 「失われた20年」がもたらす「衰退」の本質は、GDPの多寡よりもむしろ社会の変質(ぶ厚い中間層→格差社会)にある。その様相を、小熊英二氏はこう描く。

 「平均所得が減り、教育費が高騰するなかで、教育においても格差の再生産(≒世襲化)が目立つようになった。
 75年に比べて、国立大授業料は約15倍、私大授業料は約5倍となった。渡辺寛人によると、子供1人を大学まで通わせた場合の教育費の家計負担は、すべて公立でも総額1千万円以上、すべて私立だと2千万円以上となる(渡辺寛人「教育費負担の困難とファイナンシャルプランナー」 POSSE32号)。
 一方で子育て世帯の平均年収は、97年から12年に94万円減った。後藤道夫によれば、年収400万円で公立小中学生の子供2人がいる4人世帯では、年収から税金・保険料・教育費を除いた生活費が、生活保護基準を下回る。大都市の世帯で子供2人が大学に進学すると、年収600万円でも下回ってしまう(後藤道夫「『下流化』の諸相と社会保障制度のスキマ」 POSSE30号)。

 そのため少子化や「子供の貧困」が広がる一方、約半数の大学生が奨学金を借りている。その多くは返済が必要な貸与型で、学部卒の平均貸与金額は295万円だ。これだけの金額が、卒業時に借金としてのしかかる。在学中から就職活動やアルバイトで必死な者も多い。
 〜中略〜教育の負担だけでも、年収600万円以下の世帯はぎりぎりだ。さらに家族が病気になったり、介護が生じたりすれば、家計が破綻(はたん)しかねない。00年から14年に、生活が「大変苦しい」と回答する世帯は21%から30%に増え、「やや苦しい」とあわせて64%となった(渡辺寛人 前出)。
 ではどうするか。経済成長は一つの回答ではある。だが経済が成長しても、年功賃金が復活することはない。教育や介護の負担が増える時期に、年功賃金が増えるのが過去の前提だったのだ。となれば、公的援助の充実は不可欠である。
     *
 しかし政府の方針は、それとは逆行さえしている。坂口一樹によると、この15年間の医療政策は、医療需要から介護需要へ、介護施設から在宅介護へ、負担を移転させるものだったという(坂口一樹「“自助”へと誘導されてきた医療・介護」 世界4月号)。つまり政府や事業主の医療費負担を、家族の在宅介護に転嫁してきたのだ。その代償は、年間約10万人の介護離職だ。目先の財政負担削減のために、家族と社会に重圧を強いた政策ともいえる。

 恐ろしいのは、こうした政策の原因が意図的な悪意というより、ヴィジョンの不在であることだ。「社会保障と税の一体改革」に関わった駒村康平は、「年金、医療、介護、子育ての各制度『ごと』に議論が行われ、制度横断的な議論は行われなかった」と述べている(駒村康平「政府は『一体改革』というダイエットをやめ『副作用のある健康法』に飛びつくのか」 Journalism10月号)。

 これでは、医療費を削減すれば介護費が増え、介護費を削減すれば離職が増え、年金を削減すれば生活保護が増えるといった連関は論じられない。結果として、社会の再設計という総合的ヴィジョンは欠落し、個別の制度をどう延命するかという目先の議論が多くなる。こうして無自覚のうちに、家族と社会に負担を転嫁する政策が実現してしまう。それは結果として、格差の再生産や世襲化、介護離職や税収低下を招いている」(小熊英二「論壇時評」朝日10/27)。

 少子化や、グローバル化の下での「やせ細る中間層」→格差社会といった課題は先進各国に共通したものだ。問題はそれと向き合って「課題先進国」への道を開こうとするのか、それとも目先の「時間かせぎ」に明け暮れて「衰退途上国」への道を、このまま進んでいくのか。2015年国勢調査の確定値は改めて、私たちがその岐路に立っていることを示している。

【「自分の人生や生活に影響を及ぼす問題について、誰にでも発言する権利が平等にある」を当たり前に】

 衰退途上国と課題先進国、その分岐はなにか。社会を再設計するビジョンや理念は確かに必要だろう。「家族」と「企業」によって支えられることを基本に、そこから「こぼれ落ちた」人を救済するという、旧来の制度設計と政策思想―選別主義―に代わる、普遍主義の政策思想は構築されつつある(本号「囲む会」小川衆院議員、449号藤田氏インタビューを参照)。

「これからの時代は、社会に助けられるべき人と助けるべき人がいるんじゃなくて、みんなが一定の生活保障―最低限の尊厳ある生活保障―を求めているという前提に立ちます。したがって最低限の尊厳ある暮らしを成り立たせる教育、保育、子育て、そして医療、介護、年金については、全ての人々に対して、現物を中心に普遍的な給付を行っていく。そのための負担については、全ての国民が合意形成のもとに負担を拠出していく。そういう社会像を目指すべきである。これが経済社会の変化をとらえた時の唯一の道筋である、という考え方を、これから訴え、浸透させていきたいと思います」(「囲む会」小川衆院議員)。

 「みんなで支えるみんなの社会」という普遍主義的な制度設計のキモは、負担についての国民的合意形成である。そのためには、税は「とられるもの」ではなく、自分たちで社会を作るためだ、という当事者性の回復または創出が不可欠となる。

 税の歴史は立憲主義の歴史とパラレルであり、財政民主主義の主体性は、民主主義や自治の当事者性、主権者性と密接にかかわる。言い換えれば、「税はとられるもの」という感覚は、民主主義や自治に対する消費者的態度と一体のものといえる。ここをどう越えるのか。昨年来語られてきた立憲主義という感性を、憲法や安全保障だけではなく、地べたでの暮らしや自治、身の回りのあんなこと、こんなことからも話し合い、考え続けていく持続的なうねりにする、ということでもある。

 民主主義は出来がいいとはいえない仕組みだが、それでも最悪を避けるためには、今のところ唯一の知恵である。すべてを変える魔法の杖≠ナはないが(そんなものはない)、現実を少しでもましなものに近づける努力はできる。そんな民主主義を高めるために必要なのは「物申す」行動であり、低めるのは「忖度」だ。

 忖度がはびこれば、「国策に反対するなら国から出て行くべき」、「俺は国のやることに反対しない。だから国が俺の人権を守るのは当たり前だ。だが国に反対している奴らの人権を、なぜ国が守らなければならないんだ」ということが「当たり前」になってしまう。

 面倒を避け、忖度でやり過ごす。そうした消費者民主主義的態度は、今や習慣ともなっている。だからこそ、「自分の人生や生活に影響を及ぼす問題について、誰にでも発言する権利が平等にある」「民主主義のためには、質のよい悪口を言う人が必要だ」(「デモクラシーは仁義である」岡田憲治 角川新書)ということを、暮らしの現場、自治の現場でこそ「当たり前」のものにしていかなければならない。
 そんな民主主義のための立ち振る舞いは、例えばこういうことだろう。

 「通販生活」という買物雑誌がある。この夏号で表紙に「今回ばかりは野党に一票、考えていただけませんか」と掲載した。これに対する読者からの批判に、冬号でこう答えている。批判は大きく「買物カタログに政治を持ち込むな」「両論併記すべき」「左翼になったのか」という三点。
 一点目について、日々の暮らしは政治に直接、影響を受ける。お金儲けだけ考えて政治には口をつむぐ企業にはなりたくない。二点目について、両論併記はこれまでもやってきたが、安倍政権の決め方は両論併記以前の問題と考える。
 三点目。「戦争、まっぴら御免。原発、まっぴら御免。言論圧力、まっぴら御免。沖縄差別、まっぴら御免。通販生活の政治的主張は、ざっとこんなところですが、こんな『まっぴら御免』を左翼だとおっしゃるなら、左翼でけっこうです」。そして最後に「『良質の商品を買いたいだけなのに、政治信条の違いで買えなくなるのが残念』と今後の購読を中止された方には、心からおわびいたします。永年のお買い物、本当にありがとうございました」と。

 忖度と、意見の異なる相手を尊重することとは全く違う。忖度では「強いもの」や「巨大な流れ」を増幅し、同調圧力をさらに強めることになる。その行き着く先は、例えばこういうことだ。  「〜困窮者の生活相談ボランティアに参加した。まるで支払い能力(税金、家賃、食費、ショッピング)のない人間は尊厳を認められていないのかのように力なく折れてしまった困窮者たちを目の前にし、日本の人権とは、払えない人間には認められない特殊な概念ではないかと思った。
 日本の教育の人権課題が知りたくて、法務省の「人権教育・啓発に関する基本計画」の「第4章 人権教育・啓発の推進方策」を読んでみると、ジェンダーや人種差別、高齢者、障害者などのいわゆる「アイデンティティ」課題は組み込まれていても、「貧困」という大項目が抜け落ちていた」(ブレイディみかこ シノドス 2016.9.17)。

 「自分の人生や生活に影響を及ぼす問題について、誰にでも発言する権利が平等にある」という状態が奪われたところでは、「人権」は普遍的な尊厳ではなく、ある人には与えられ、ある人には与えられなくて当然というものになってしまう。ブラックバイトの現場では、ひどい扱いを受けても、自分に責任があると追い込まれた若者が、声を上げられずに泣き寝入りさせられる。過労死した新入社員に対して「残業100時間で過労死とは情けない」というバッシングが浴びせられる。消費者民主主義の忖度が生み出したのは、こういう社会ではないのか。私たちは、こんな社会を次世代に残すのか。

 1948年から53年に中学・高校の教科書として使われた「民主主義」(文部省)はこう述べている。「民主主義を単なる政治のやり方だと思うのは、まちがいである。〜略〜すべての人間を個人として尊厳な価値を持つものとして取り扱おうとする心、それが民主主義の根本精神である」(西田亮介・編 幻冬舎新書)。
「自分の人生や生活に影響を及ぼす問題について、誰にでも発言する権利が平等にある」ということが当たり前―そんな日常を暮らしの現場、自治の現場で作り出していこう。

(「日本再生」450号)

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囲む会のご案内  「凡庸の善で考え続けるために」
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◆第166回 東京・戸田代表を囲む会【会員限定】
 「《2020年後》にむけて、小池都政とどう向き合うか」
 ゲストスピーカー 酒井大史・都議会議員、中村ひろし・都議会議員
 11月1日(火)午後6時45分より
 「がんばろう、日本!」国民協議会事務所(市ヶ谷)
 参加費 同人会員1000円/購読会員2000円

◆第167回 東京・戸田代表を囲む会【会員限定】
 「パリ協定とCOP22」(仮)
 ゲストスピーカー 明日香壽川・東北大学教授
 12月1日(木)午後6時45分より
 「がんばろう、日本!」国民協議会事務所(市ヶ谷)
 参加費 同人会員1000円/購読会員2000円

 *温暖化防止の新たな国際条約、パリ協定が発効した。批准に出遅れた日本は今年のCOPに
締約国として参加できず。オブザーバーとして出られるかどうか…というありさま。
国連の核兵器禁止条約にも反対。こちらも条約が発効すれば「唯一の被爆国」とは何なのか
が厳しく問われることになる。日本の国際的な立場はどうなっているのかを考えるために。

◆第168回 東京・戸田代表を囲む会【会員限定】
 「民進党がめざすもの」(仮)
 ゲストスピーカー 大島敦・衆議院議員
 12月6日(火)午後6時30分より
 「がんばろう、日本!」国民協議会事務所(市ヶ谷)
 参加費 同人会員1000円/購読会員2000円

 *民進党代表選挙で前原氏の選対事務局長を務めた大島議員に、「民進党のこれから」について
  お話しいただく。

◆第八回大会 第三回総会
「『時間かせぎ』の政治に対抗しうる『未来への責任』をどう語るか
 〜立憲民主主義と主権者運動の役割」(仮)
 11月13日(日)午前10時より午後6時
 「がんばろう、日本!」国民協議会事務所(市ヶ谷)

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◆2016年望年会・東京
 12月23日(金・祝) 午後4時から
 「がんばろう、日本!」国民協議会事務所(市ヶ谷)
 参加費 1500円(予定)

◆関西政経セミナー特別講演&望年会
 12月7日(水) コープイン京都
 ・特別講演会 午後6時より
 「地球環境×エネルギー×民主主義〜私たちはどこまで来て、どこへ向かおうとしているか」
 諸富徹・京都大学教授
 会費 1000円
 ・望年会 午後7時より 
 会費 3500円
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石津美知子
「がんばろう、日本!」国民協議会
http://www.ganbarou-nippon.ne.jp