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「がんばろう、日本!」国民協議会
http://www.ganbarou-nippon.ne.jp
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Index 
□ 規模と効率、選択と集中の「地方創生」か
  都市と田舎の新しい関係性―持続可能な暮らしと環境の実現か 
 ●地方消滅と限界都市東京 何が限界を迎えているのか
 ●規模と効率、選択と集中で、地域は持続可能となるか
 ●「新しい現実」「なつかしい未来」を自分たちの手で

□お知らせ
 東京・囲む会(10/17 「原発」)
 京都シンポジウム(11/24 「地域再生」)
 急募! 稲刈りのお手伝い
 
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規模と効率、選択と集中の「地方創生」か
都市と田舎の新しい関係性―持続可能な暮らしと環境の実現か
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【地方消滅と限界都市東京 何が限界を迎えているのか】

 人口減少社会のリアリティーが、ようやく認識され始めてきた。日本創成会議が 発表したいわゆる「増田レポート」は、 「地方消滅」(中公新書)という衝撃的なタイトルで出版され、「骨太の方針二〇一四」の基本認識としても取り入れられている。「人口減少 に立ち向かう」というこれまでの政策スタンスから、「人口減少を前提にする」という政策スタンスへの転換が図られつつあるのは「前 進」で はある。しかし「選択と集中」や「道州制」といった発想で、はたして未来を描けるのか。

 われわれが直面している現実をあらわす、二つの二〇一五年問題。ひとつは「消 滅の可能性」を指摘される地方の衰退 だ。過疎地の生業、地域、生態系をこれまで何とか支えてきた昭和一ケタ世代が、いよいよ引退し始める。一方首都圏では、高度成長期に一気 に増加した人口の中核をなす団塊世代がリタイアし、場所によっては地方の限界集落並みの高齢化率の地域が出現し始める。

 では、限界を迎えているのは何なのか。それを見誤れば、やみくもに危機感をあ おるだけになる。ここで問われるのは、 次のような視点だろう。
 「この問題を限界集落や限界団地と見るのは、おこがましい考えかもしれませ ん。なぜなら、限界を迎えているのは、そ うした地域を使い捨てにしてきた戦後五〇〜六〇年のやり方であって、その土地や団地が限界を迎えたわけではないからです」(藤山浩 中山 間地域研究センター研究総括監
http://www.mlit.go.jp /kokudokeikaku/iten/onlinelecture/lec138.html)

 人口減少社会を前提にした政策として、人口三十万程度の「地域拠点都市」をつ くり、そこに投資と政策を集中する、い わゆる「選択と集中」が提言されている。言い換えれば、それ以外の地域は「たたむ」ということだ。これは道州制ともリンクする話になるだ ろう。さらに国土をグローバル競争の拠点となる「グローバル経済圏」と、地域の顧客に対応する「ローカル経済圏」に分業化すべきだと も。 前者はまさに安倍総理の言う「世界で一番企業が活躍しやすい国」ということだろう。

 ここに「地域」や「人の営み」は見えているか。人口減少とは、人の数が減る→ 経済が衰退するということなのか。グ ローバル経済圏の拠点と目される東京では、保育園や学校での子どもの声が「騒音」とされる。さすがに条例で騒音の対象とみなさない、とさ れるようだが、こんな地域が持続可能だろうか。

 千代田区の空家率は四割近いという。その大半は、低金利時代に家賃収入を目当 てに購入されたワンルームマンション だ。「不在地主」の区分所有者には適正に管理するインセンティブもなく、虫食い状態で空き家になっている。いずれ、転売も建て替えもでき なくなるものも出てくるだろう。アベノミクスとオリンピックに煽られた開発ラッシュの裏で、確実に進行する限界都市東京の姿だ。い や、正 確には「地域を使い捨てにしてきた」これまでのやり方の限界が見えてきた、というべきだろう。

 「人口とは何か。単なる労働力か、国家の国力を支えるものか。そうではなく、 一人ひとりの幸せや豊かさを問うべきで はないか」。中山間地域研究センターで九月十六日に行われた、地方消滅vs田園回帰をテーマとしたディベートでは、参加学生からこうした 本質的な問いが投げかけられた。
 増田レポートの「地方消滅」とは、人口が一定規模を割ると自治体行政が維持で きなくなる、という趣旨でもあるが、こ のディベートでは「自治体行政がなくても、自治はできる」という、これまた本質的な問いも投げかけられた。

 地域とは単なる「場所」「土地」ではない。それはそこに受け継がれてきた人々 の暮らしや生業、そこから生じた文化、 人の手が入ることで維持されてきた生態系、それらの集積だ。「選択と集中」のグランドデザインには、こうした「地域」が見えているか。
 地域が見えていなかった、見ようとしてこなかったやり方が、いよいよ限界を迎 えているのか。それとも、危機感をバネ に「選択と集中」を目指すのか。人口減少で全国の自治体の半数が消滅する、とされる二〇四〇年をどう迎えるのか。その岐路に私たちは立っ ている。

【規模と効率、選択と集中で、地域は持続可能となるか】

 増田レポートを前提認識とし、地域存続の危機と巨大災害の切迫に対する基本戦 略として打ち出されているのが「日本版 コンパクトシティー」だ。東京に向かう人の流れを変えるために「地域拠点都市」をつくり、そこに投資と政策を集中するという「選択と集 中」である。これによって今後の地域経済を担い、人口を維持することができるのか。

 岡田知弘・京都大学教授は、以下のように指摘する(「世界」10月号 「さら なる『選択と集中』は地方都市の衰退を 加速させる」)。

 事例として取り上げられるのは浜松市。東日本の政令都市においては東京系企業 の支店、分工場が、地域経済の二割から 八割を占めるという。東京に所得が移転されることで、地域の自律的な経済発展が阻害されている構造だが、この中で相対的に自律度が高いの が浜松市だ。
 ではこの浜松市はどうなっているのか。二〇一三年、浜松市は人口の社会減に 陥った。これまで地域経済を支えていた企 業の工場閉鎖、撤退が相次ぎ、若年層の域外流出が加速したからだ。グローバル競争が激化するなか、輸出製造業依存の産業構造が崩れつつあ る。
△ 人口減少の要因はもうひとつ。それは市町村合併だ。平成の大合併で政令市を目 指した浜松市は周辺十一市町村と合併 し、長野県境から太平洋までの広大な市域となった。その結果、周辺地域の人口は劇的に減少した。
 合併によって旧市町村役場がなくなって支所となり、小中学校が統廃合された。 学校に通う子どもを持つ世帯が山を下 り、さらには高齢者も転出。役所からの発注もなくなるという悪循環が広がった。浜松市では当初、旧市町村ごとに地域自治組織を置いたが、 行政改革による「選択と集中」で廃止、これによって地域の衰退に拍車がかかったといえる。

 グローバル競争に生き残る輸出製造業、それを支える労働力―「人口」のこうし たとらえ方で、私たちの未来を描くこと ができるだろうか。地域自治を合理化する自治体行政が目指すものは何なのか。自治体は生き残ったが地域自治は滅びたというなら、それは私 たちが望む未来ではない。

 岡田教授はこうも指摘する(前掲書)。平成の大合併を挟んで自治体規模の推移 を見ると、人口一万人未満の町村は合併 によって大きく数が減り、かわりに総務省が「都市圏」構想の対象として考えている人口二〇万人以上の自治体が、数においても人口において も大きく増えている。
 しかしこうした都市圏が国土面積に占める比率は11・5%に過ぎない。逆に三 万人未満の自治体、人口にして8・4% の人々が、国土の約半分47・3%を支えている。その多くが都市圏の水源を含んでおり、さらには食料や電気を供給している。人が住んでこ そ国土は保全されている。こうした地域を投資と政策の対象から外すことは、やがては都市圏の持続可能性をも失うことにつながる。

 都市圏か中山間地域か、という二者択一ではない。都会と田舎の新しいつながり ―関係性を創りだすなかから双方の持続 可能性を見出す、その多様なチャレンジが求められている。

 「人口減対策を考えることは、どのような国土や社会をめざすのかを考えること です。その意味で国民一人ひとりの問題 です。最近、ネット上では『日本にはシンガポールのような都市が七つ、八つあれば足りる』といった主張も目立ちます。しかし、農山村は食 料や水、エネルギーを供給する源で、それらは人が住んでこそ守られます。オリンピックによって、田園回帰が単なるブームで終わるの か、本 物なのかが試される。地方の消滅を『時代の流れ』とあきらめてしまうのか、未来は変えられるものとして知恵と努力で立ち向かうのか、その 岐路にいま、私たちは立っているのです」(小田切徳美・明治大学教授 朝日8/20)

【「新しい現実」「なつかしい未来」を自分たちの手で】

 島根県中山間地域センターの藤山・研究総括監は、首都圏人口の一万分の一が毎 年田舎に移住すれば、島根の田舎は持続 可能だという。毎年三千人(子育て世代を含む)の定住増加があれば、島根県の山間部、離島で小中学校を維持できる人口安定水準は可能だ と。これは地域人口の1%、首都圏人口の一万分の一だ。一万分の一という規模なら、地域間での奪い合いになることもない。
 こうした田園回帰を支える地域経済についても、域外に出て行くお金の1%を地 域内で再循環させるなら、年三百組の新 規定住が可能になると試算している。

 現に都市部から移住してきた人々によって、島根県内の「田舎の田舎」では子ど もの数が増えている。四十歳以下の女性 が半減する「消滅可能性の自治体」とされた邑南町では、「日本一の子育て村」を掲げて人口の社会増を実現している。「地域でおせっかいす る」という伝統に加えて医療や保育サポート体制、それに惹かれて移住してくるシングルマザーもいる(石橋町長のインタビュー 次号掲 載)。

 中山間地域、限界都市東京、いずれも持続可能性の危機に直面しているが、持続 可能性のポテンシャルがみえやすいのは 圧倒的に中山間地域だ。そこに若い世代は「なつかしい未来」を見出して移住する。さらにこうした移住の波の背後には、「帰れば食うに困ら ない場所を作る」という暮らし方(「フルサトをつくる」伊藤洋志×pha 東京書籍)や、「食を通じて都市と田舎をかまぜる」(高橋 博之 氏 本号参照)をはじめ、さまざまな動きが始まっている。地方から東京に向かう流れはあまりにも巨大すぎる。これまでほとんどゼロだった 東京から田舎の田舎に向かう流れを少し増やせば、田舎の持続可能性が見えてくる。

 それに対して都市部、とりわけ限界都市東京は、これから深刻な状況が予測され る。二〇一〇年から二〇二五年(団塊世 代が全員、後期高齢者となる)までの十五年間で、東京では後期高齢者が七四万人増加する。今でさえ、東京では特養への入所を待っている 「待機老人」が四万三千人いるというのに。

 だが、「どうなっており、どうなりうるか」は危機感を煽るためのものではな い。危機感からは当事者意識も関係性も涵 養されない。危機感から生じてくるのは「衰退する地方を偏重するな、都市部の危機を何とかしろ」という奪い合い(依存と分配の裏返し)で しかない。

 むしろこれから限界都市でこそ、中山間地域の実践的な教訓が活かせるはずだ。 空き家問題も、買い物弱者・交通弱者の 問題も、独居世帯の問題も、地域包括ケアの問題も、中山間地域の経験から教訓やノウハウを学び、それぞれの地域に応じて活かしていくこと こそ、問われる。そこに共通しているのは自治であり、当事者性と関係性をいかに涵養するか、ということだろう(「日本再生」424号   「囲む会」特別編を参照)。

 限界を迎えているのは地域ではない。限界を迎えているのは、地域を使い捨てに してきたこれまでのやり方だ。アベノミ クスによる「異次元の金融緩和」によって、市場に出回るマネーの量は政権発足前の約二倍となった。これはバブル当時(九〇年)の六倍の水 準だ。それで経済の現場、人々の暮らしの現場の何が変わったのか。
 「VS東京」と題する徳島県のPRビデオは、「東京に取って替わる新しい価値観を徳島 が発信します」「徳島が(生きることがままならん)東京を救っちゃる」という。
http://www.youtube.com/watch?v=JN-bmtN9OjA このビデオを作製したのは県の若手職員と、神山町にサテライトオフィスを構え る会社だ。(神山町については「日本再 生」397号参照)

 「どうなっており、どうなりうるか」を出発点に、当事者性と関係性を繰り返し 涵養し、新しい現実、なつかしい未来を 自分たちの手に。

(「日本再生」245号 10/1発行 一面より)

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□ お知らせ
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《東京》
◆第142回 東京・戸田代表を囲む会
「福島原発はどうなっているのか
 〜3.11後の原発を、エネルギー自治の当事者として考えるために」」
10月17日(金)18時45分から21時
ゲストスピーカー 佐藤暁・元原子炉メーカー技術者
「がんばろう、日本!」国民協議会 事務所(市ヶ谷)
同人 1000円/購読会員 2000円
*8/30シンポジウム(245号掲載)を参照

《京都》
◆シンポジウム
「里山・林業の再生から地域再生・新しい地域経済を考える」
11月24日(月・祝) 14時から18時
コープイン京都 2階
参加費 1000円
第一部 講演 太田昇・真庭市長、中島浩一郎・銘建工業社長
第二部 パネルディスカッション 太田市長、中島社長、岩ア憲郎・高知県大豊町 長、
    諸富徹・京都大学教授、前田武志・参議院議員 

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 急募! 稲刈りのお手伝い
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9/10 東京・囲む会でお話しいただいた「東北食べる通信」の高橋さん。この 「東北食べる通信」に登場した秋田の ファームガーデンたそがれ・菊地さんが、急遽、稲刈りのお手伝いを募集しています。
不耕起栽培の田んぼでは今年、水が引かないために、コンバインでの稲刈りを断 念。急遽、「一生のお願い」ということ で、人海作戦での稲刈りのお手伝いを呼びかけています。
関心と体力があって、都合がつく方がいらしたら、ぜひ!

ファームガーデンたそがれ http://farmgarden.jimdo.com/から、フェイスブックにアクセスしてみてください


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石津美知子
「がんばろう、日本!」国民協議会
http://www.ganbarou-nippon.ne.jp