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「がんばろう、日本!」国民協議会
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▼ Index 
□3.11後の「新しい現実」と地域民主主義のイノベーション
「未来へ投資する社会」の多様なモデルを、大きなうねりへ

●3.11後の「新しい現実」を創り出す〜自治・分権・参加
●地域民主主義の根幹としての自治体議会へ

□お知らせ 1月、2月の「囲む会」

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3.11後の「新しい現実」と地域民主主義のイノベーション
「未来へ投資する社会」の多様なモデルを、大きなうねりへ
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●3.11後の「新しい現実」を創り出す〜自治・分権・参加

 3.11は否応なく、これまでの私たちの社会のあり方、生活のあり方、経済の あり方を根底から問い、変化を迫った。それから三年目を迎えようとしている今、3.11以前に戻そうという逆風、逆行も一部にはある が、不可逆的な変化の兆しが「新しい現実」となりつつあることも確かだ。二〇一三年は、「未来へ投資する社会」の多様なモデルが見え 始めてきたといえる。二〇一四年はこれを加速化し、ネットワーク化し、大きなうねりにしていくことだ。

福島原発事故を受けて、ドイツでは保守政権が脱原発を決めたが、その基礎にあ るのはエネルギーのパラダイムシフトという「新しい現実」だ。元々ドイツの脱原発は、チェルノブイリ事故から十二年間にわたる民意の 変化が、ようやく一九九八年の政権交代で社民党と緑の党との連立政権を生み、そこで「二〇二〇年までに稼動停止」が決まった(法制 化)ものである。
 しかし二〇〇五年の政権交代でメルケル・保守政権が誕生すると、ゆり戻しが始 まり、二〇一〇年には原発稼動期間を二〇四〇年代まで延長することが決まる。その直後に福島原発事故が起こり、メルケル政権は「二〇 二〇年までに稼動停止」という当初の計画に戻したのだ。

 この決定をもたらしたのは、福島原発事故の衝撃だけではない。より重要なこと は、固定価格買取制度による再生可能エネルギーの普及策によって、いまやドイツでは発電者の形態が大きく変わり、設備容量の50%を 個人や協同組合が所有するようになったという、エネルギーと社会のパラダイムシフトが、脱原発という「新しい現実」をゆるぎないもの にしている、という点だ。

 固定価格買取制度による再生可能エネルギーの普及は、原発や火力発電のような 大規模集中電源を、大規模なメガソーラー、メガ風力などに置き換えるだけではなく、旧来の地域独占・垂直集権型システムから、個人や 地域がエネルギーの消費者であるとともに供給者でもある(プロシューマー)という自治・分権・参加型システムへの、社会のイノベー ションをもたらした。(従来型の発電所は依然として必要であるが、その位置づけはベース電源からバックアップ電源へと変わる。)

 3.11を経験した私たちは、このパラダイムシフトの入り口に立っている。ド イツでエネルギー自治の「新しい現実」を創り出したのは、国でもなければ政府でもなく、電力会社でもない。市民であり、地域であり、 (ドイツの場合は協同組合という)自治組織にほかならない。政治にできるのは、社会が生み出した「新しい現実」を追認することであ る。「国が〜」「制度が〜」と言ったとたんに、「新しい現実」は「他人事」になる。

 政府は一月にも、新しいエネルギー基本計画案を閣議決定しようとしている。同 案では、原発を「基盤となる重要なベース電源」と位置づけ、民主党政権での「原発ゼロ」からの転換を図っている(一月六日までパブ リックコメント募集。http://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=620213015)。河野太郎議員がこれを、「見るも無残。東京電力福島第一原発事故など無かったかのようだ」と痛烈に批判しているのは当然だろう。同時に、3.11後の「新しい現実」を追認させるための主戦場は、地域から再エネの多様 な成功モデルを加速化させるところにある。旧いシステムにはもはや、それを阻止する力は残っていない。

「これ(国全体のエネルギービジョン/編集部)は、地域の動きがあって初めて具体化される面もありますね。ニワトリが先か卵が先か、みたいな面があるんですが、私は諸富先生と同じような考えで、地域のイノベーティブな、クリエイティブな 取り組み、そこに成功例が出てくることが、日本では大きく広がる契機になると思います。だから先覚者が出てこないといけな い。パイオニア的にフロンティアになる地域が出てきてくれることが大切です。
 〜中略〜同時にもう一つ言えることは、ネットワークですね。つまりコミュニケーションと 相互学習で励まし合っていくということです」(植田・京都大学教授 シンポジ ウム「未来へ投資する社会へ」四一五号)

 イノベーションは本来の意味からして、起こそうとして計画的に起こせるもので はないが、起こしやすくすることはできる。「小さくてもよいから」というのは否定的な意味ではなく、「小さいからこそできる」ことが あるということだ。小さくても、自分たちの地域でなら仲間を作ってできる、小さくても自分の会社ならできることがある、あるいは自分 がやろうとすればできることがある。二〇一一年夏の節電は、まさにそうしたことの積み重ねで成し遂げたものだ。このとき私たちは、電 気は電力会社がコントロールし、私たちは一方的に享受するしかないものではなく、私たち需要側からもコントロールできることを学んだ はずだ。

 3.11そしてエネルギーをめぐって日本社会で始まっている根本的な変化は、受 益を享受するだけの消費者から、能動的に生産・供給にも関わるプロシューマーへの転換ではないか。国のエネルギー政策の方向性は重要 だ。しかしそれを決めるのは、最終的には国民の選択だ。自分たちの地域は再エネ自給率が20%になった、自分の会社は電力二割減でも やれる、自分の家は太陽光発電で昼間の電力はまかなえる…。こうした小さな「新しい現実」が全国に無数に創りだされれば、気がつけば 原発に依存しない新しい社会ができるはずだ。それを追認できないなら、追認できるように一票で政権を変えることもできる。

 垂直的・集権的システムでは、受益と負担、消費と供給の関連が分離され、見え にくくなる。受益を享受するだけの「お任せ」の消費者が生み出され、見て見ぬふりのなか、「未来を搾取する社会」が続くことになる。
 「新しい現実」を創りだす行動準則は、自治・分権・参加だろう。「小さいから こそできることがある」ということは、他人任せにはできない、ということでもある。「政権交代」のかけ声なら他人称の「応援団」でも できるが、自治にはその余地はない。誰もが参加し、何らかの責任と役割を負う。分権は、そのためにこそ必要なのだ。

 受益と負担の関係も「見える化」される。二〇五〇年、人口九千万人、高齢化率 35から40%という日本の姿は、そう遠い先の話ではない。これも「日本全体」の話としてではなく、そのときの地域の姿を考えるとこ ろから、地域自治組織の「新しい現実」が始まる。

 自治基本条例制定の動きを批判した自民党政務調査会報告は、批判の根拠のひと つとして、地域自治組織がなくても自治会や町内会などの地縁団体があるとしている。しかし少子高齢化・人口減によって、現状の老夫婦 世帯は独居老人世帯となっていく。世帯数はまだ維持されているとしても、その構成は大きく変わっており、もはや世帯主を単位とした地 縁団体だけでは、地域を支えることはできなくなっている。地域自治組織は、世帯主だけではない地域の構成員を組織化して、地域を維持 するための「新しい現実」だ。これもまた各地の成功事例、イノベーティブな取り組みを加速化し、広げていくことが必要だ。

 住民が変われば地域は変わる。地域自治組織の活動が始まるにつれ、これまでは 「市役所は、やってくれない」と言っていた住民が、「市役所は、やらせてくれない」に変わる。住民が自分たちの地域のことに自分たち で取り組む(自治)、そのための分権である。

 分権改革も停滞や(一括交付金化の廃止など)逆行という指摘は、的外れではな い。ただこここでも肝心なことは、分権一括法から十年あまりで生まれてきた「新しい現実」だろう。「国がこう決めたから」ではなく 「自治体でこう決めた」という領域が増えたこと、さらに国・地方とも財政制約が明らかになったこと、少子高齢化・人口減という趨勢を 意識せざるをえなくなったこと、などによって「あれも、これも」ではなく「あれか、これか」という議論、そして「目先のことだけでな く二十年先のことも考えよう」という議論が、普通にできる空間が広がっている。これを地域民主主義の深化・イノベーションへといかに つないでいけるか。それが問われることになる。

●地域民主主義の根幹としての自治体議会へ

 「(分権によって)地域の自由度が高まるということは、地域の経営の自由度が 高まるということです。従来は行政主導でした。それは仕方ないところもあって、中央からの補助金や規制のしばりがありますから、行政 側の執行という側面に重点がいかざるをえなかったのです。しかし分権の方向に舵が切られ、地域の自由度が高まると、地域のさまざまな 利害を調整して統合していくという政治の役割が高まります」(江藤俊昭・山梨学院大学教授 本号10−12面インタビュー)

 地域政治の役割の高まりは、「ものごとの決め方」をめぐる二つの方向性を生み出している。ひとつは前記、江藤教授によれば「首長主導型民 主主義」、別名「水戸黄門主義」であり、「お任せ民主主義」である。いまひとつは、議会と執行機関がそれぞれの特徴を出し合って政策競争を行っていく「機関競争主 義」、その本質は、地域民主主義の根幹としての自治体議会ということである。(前記、江藤教授のインタビューならびに6−10面「囲む会」廣瀬克哉・法政大学教授講演を参照。)

 「決められない政治」や「決める政治」が喧伝されたが、民主主義の決定におい て重要なのは、決定の中身の水準とともに「こうして決めるしかない」という手続きの正統性と、他の選択肢は難しいということに対する 一定の「納得」である。こうした「いい決定」ができるためには、情報が公開されること、そしてオープンな場での討議が不可欠になる。 本来議会とは、そのような場であるべきだ。

 住民も「お任せ民主主義」の消費者にとどまるのではなく、決定にかかわる責任 と役割を担うことになる。国政が代表制の原理によって動く(主権の行使は代表を通じて行われる)のに対して、自治体の民主主義は、直 接民主制の原理による多様な住民参加によって補完されている。「みんなで話し合って決めた」(だから結果もみんなで引き受ける)とい う当事者意識をもった民主主義の場になるのは、執行機関ではなく議会にほかならない。
 住民の声を起点に政策サイクルを回す、行政からもきちんと情報を聞き(「どう なっており」のみならず、「どうなりうるか」というシミュレーションも含む)、住民、執行機関、議員がいっしょに議論する場に、議会 がなっていく。そうした「新しい現実」が生まれ始めている。

 地域自治組織が動き始めると、それまでは「市役所は、してくれない」と言って いた住民が、「市役所は、やらせてくれない」に変わるように、「みんなで議論して決めた」という場、経験は市民を変えるはずだ。

 埼玉県北本市では、JRの新駅(請願駅)建設の是非を住民投票で問うた。執行部、議会とも新駅建設 を決めており、財政的にも大丈夫という試算も出ているが、それでも巨額の支出を伴う事業であるから住民の意思を確認する必要がある と、市長が提案した。制度上、住民投票には市の決定を拘束する権限はないが、今回は投票率の如何に関わらず、一票でも多いほうに従う と市長が明言し、文字通り住民が「自らの一票で決める」ことになった。結果、市長選を上回る投票率(62%)となり、圧倒的多数で新 駅は否決され、市長は計画を白紙とした。

 ここでもポイントは、新駅建設の是非よりも、これをきっかけに市民がまちづく りや、市の財政について考え、投票したというプロセスにあるだろう。「住民投票のプロセスはまちづくりの貴重な財産だ」「これ以上、 将来世代に借金を背負わせたくない」という市民の声は、新駅建設の是非にとどまらない、まちづくりの新たな共通の土俵の可能性を生み 出している。ここから、「みんなで議論して決める」オープンな言論空間を開けるか。今度は議会が試される。
 このような「新しい現実」の萌芽や可能性は、至るところにあるはずだ。それを 大きく育て、相互に学びあい、広げていこう。

 年明け早々、東京都知事選が行われる。二〇二〇年オリンピックを準備する都知 事を選ぶ選挙である。二十一世紀の課題先進都市に少しでも近づけるのか、それとも最後のドンチャン騒ぎに明け暮れるのか。オリンピッ クの翌年から、東京も人口減少に転じる。東京という自治の足のないユーレイのなかにも、「せめて七年先のことを考えよう」という分解 が広がるようにしたいものだ。

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お知らせ
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◆第131回 東京・戸田代表を囲む会
「農林水産業・地域再生への展望」
1月14日(火)18時45分より21時
ゲストスピーカー 寺西俊一・一橋大学教授

◆第132回 東京・戸田代表を囲む会
「閉塞状況を打開する議会からの政策サイクル」
1月14日(火)18時45分より21時
ゲストスピーカー 江藤俊昭・山梨学院大学教授

*いずれも、会場は「がんばろう、日本!」国民協議会(市ヶ谷)
 参加費は 同人1000円 購読会員2000円

《京都》
◆第22回 京都・戸田代表を囲む会
「国民主権の発展としての憲法改正を」
2月1日(土)18時45分から21時
コープイン京都 202会議室
1000円
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石津美知子
「がんばろう、日本!」国民協議会
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