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▼ Index 
自治の多面的・統合的アプローチのなかから、未来へ投資する社会への道すじを

●「依存と分配」のたたみ方、「未来への投資」の立ち上げ方
●未来へ投資する社会への多面的・統合的アプローチを、地域から

□11月10日シンポジウム「未来へ投資する社会へ〜エネルギー自治、循環型社会」

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自治の多面的・統合的アプローチのなかから、未来へ投資する社会への道すじを
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●「依存と分配」のたたみ方、「未来への投資」の立ち上げ方

 アベノミクスの「第三の矢」として位置づけられる成長戦略のひとつ、「国家戦略特区」の概要が固まった。小泉政権での「構造改革特区」、民主党政権での「総合特区」など、これまでにもさまざまな特区制度が導入されてきた。これまでは地域(主として自治体)が申請主体になってきたが、今回は政府が地域や企業の提案をもとに事業を選び、特区ごとに「国家戦略特区計画」を策定し、規制緩和や税制優遇などを主導するという。
 新興国が外資を起爆剤とするために設ける特区とは違い、日本での特区は、21世紀の課題先進国へとリニューアルするための政策実験の場であるはず。「新しく作る」だけの時代とは違い、ここで求められるのは、過去の負債のたたみ方と新しい未来の立ち上げ方との合わせ技だ。

 これまでに数多くの特区がつくられてきたが、なかには骨抜きにされ、実績をあげられないまま消えていったものも少なくない。一方で地域からの提案は、土地利用の制限や省庁の許認可など、発展を妨げている法律や制度の問題を浮き彫りにした。しかし、足かせを解くために十分取り組まれてきたとはいえない。ここに「停滞」の大きな要因がある。こうした規制は、東日本大震災の復興や各地で取り組まれている自然エネルギー普及の妨げにもなっている。この岩盤を除くことで、国内の活性化に高い効果が得られるはずだ。

 国、中央政府が主導する成長戦略という発想自体、過去の負債にほかならない。21世紀の課題先進国で求められるのは、地域がそれぞれの「あるものみがき」を通じて多様な個性を発展させる、そうした姿の成長ではないか。特区に求められるのは、地域からの発想、提案を生かすことだろう。それぞれの特性に応じた「たたみ方」と「立ち上げ方」のモデルを創りあげることができれば、変化は加速的に可視化されるはずだ。

 ますます厳しさを増す国際的な競争で生き残ることは大切だ。しかしその「強さ」は、競争による効率を極限まで追求することで、得られるものだろうか。あるいは、そうした「強さ」ははたして持続可能なものだろうか。「競争による効率」の横に、それと並んで「協調を通じた効率」≒持続可能性という、もうひとつの社会(セーフティーネットでもある)をつくることこそが「強さ」につながるのではないか。

 例えば担い手不足で衰退の危機にある農業。TPPを契機に「攻めの農業」を目ざし、競争を通じた効率化を追求するというのは、ひとつの方向性ではある。ここでは規模拡大を通じて、市場原理に基づいて効率的に経営を行う意欲ある担い手の育成が想定される。当然、これまでのような一律の補助や支援ではなく、「選択と集中」が図られる。
 だが一方で中山間地の農業は、そもそもこうした「競争を通じた効率化」とは別の原理で維持されてきた。それは、環境保全も含めた地域社会の維持である。いわゆる農業の多面的価値といわれるものであるが、問題はそうした地域社会の維持を全面的に補助金に頼るのか、それとも「協調を通じた効率化」という原理によって維持するのか(そのための財政支援)である。

 営農者を地域社会の担い手として位置づけるなら、担い手不足による耕作放棄地の拡大は、地域社会の持続可能性の危機でもある。そのため自治体が農地を借り受け、新規参入者を募って貸し付ける農業公社という仕組みがある。ここでの農地の集約や利用の効率化がうまく機能するケースでは、単に「攻めの農業」を目ざす規模拡大一辺倒ではなく、生きがい・楽しみとしての営農にも配慮しながら、地域全体としての土地利用調整機能を発揮するところにある。地域の合意形成を重視し、協調を通じて結果として効率的な農地の活用を実現するのである。

 島根県雲南市の(株)吉田ふるさと村は、全国でも初期に設立された第三セクターだが、その企業理念は「市場(農協)に出して儲かるものは農家自ら市場へ出してもらう。ふるさと村は形は悪いが安心して口にできる農産物にこだわり、それを引き受ける」というもの。高齢者の「生きがい」としての農業を支えることを通じて、地域社会を支えている。(島根大学山陰センター「山陰研究」第4号「『担い手』支援と自治体農政の地域的展開」(関・北垣)より)

 農協、商工会、森林組合と村民の共同出資によるふるさと村は、農産物の加工販売をはじめ水道事業やバス運行、観光事業など、さまざまなコミュニティービジネスを展開して、いまや地域で69名(パートも含む)の雇用を生み出しているという。雲南市は、里山を活用した市民による地域再生のプランで、地域活性化総合特区の認定を受けている。その提案のなかには、市民が地域ニーズに基づくサービスを一元的に担う「スーパーコミュニティー法人」(小規模多機能自治体)の創設も含まれる。これは、ふるさと村の集積があったからこその挑戦といえるのではないか。

 税金ですべてを支えることはできない。しかし「競争による効率の追求」だけで社会を運営することも、不可能だ。「競争による効率の追求」は必要だが、それと並んで「協調を通じた効率」という、もうひとつの原理で運営される多様な社会をつくりだす。それが21世紀の課題先進国のビジョンではないか。

 コミュニティービジネスに必要な投資は、旧来の産業誘致やインフラ整備に比べれば、はるかに小さな金額だ。決め手は、その担い手を生み出す社会関係資本の厚みである。長野県飯田市で再エネ事業を展開する「おひさま進歩エネルギー」の企業理念は「持続可能」、「質素・簡潔」、「蓄積」。
 「経済を中心に豊かさを求めてきた結果、国や地方は一千兆円になろうとする借金を抱えてしまいました。現状、税金でまかなえる状況ではなく、増税をしても、歳出削減をしても、この借金体質から抜け出せるとはとても思えません。日本だけでなく世界でも財政難でいつ破綻してもおかしくない国が多くあります。
 世界の1%しか潤わない社会がこのまま存続していくとはとても思えない現状ですが、このことに気がついていても、現状の枠組みからは改善する動きすら見られません。
 こうした現状をふまえると、補助金に頼らない『新しい公共』を作り出すときがきていると思われます。現状の枠にとらわれず新たな共同体が自給自足する仕組みを作り、このネットワークが全国に広がれば、新たな社会が作られていくのではないでしょうか。〜略〜
 この仕組みを作っていくには時間も必要であり、行政は現状の仕組みの中で補助金や、住民の意識改革への取り組み、制度改革等を行い、公共の概念を変える提案をする役割を担ってきていると思います。
 おひさま進歩は、こうした点では先駆者的な役割を果たしています。
 国の『新成長戦略』として、再生可能エネルギーによる地域活性化が必要と言われています。このことをとらえて前向きに取り組むことが今、求められているのではないでしょうか」(「みんなの力で自然エネルギーを」発行・おひさま進歩エネルギー株式会社)

 それぞれの特性に応じて地域のなかから生まれる「未来への投資」。それを生かすためにも求められる過去の負債のたたみ方。ここでは競争と効率、選択と集中とはひと味もふた味も違う、「現状の仕組みの中で補助金や、住民の意識改革への取り組み、制度改革等を行い、公共の概念を変える提案」(おひさま進歩 前出)が求められている。

●未来へ投資する社会への多面的・統合的アプローチを、地域から

 アメリカでは議会で暫定予算が合意できないため、十月一日から政府機関が一部閉鎖となった。このままでは米国債が債務不履行になる、というギリギリのタイミングで、とりあえず債務上限は先送りされたが、アメリカの財政危機は繰り返される様相を呈している。与野党対立による「決められない政治」は好ましいものではないが、政府の規模―政府はどこまでカバーすべきか―をめぐる論戦と、それが及ぼす影響(政府機関の閉鎖)の可視化は、いやおうなく国民に当事者意識を迫る。ティーパーティーを支持する人たちは「これ以上、政府が大きくなったら将来が心配だ」と言い、オバマケアを支持する人たちは「アメリカ社会は助け合うべきだ」と言う。

 翻って日本。日本でも暫定予算切れの経験はあるが、政府閉鎖にはならない。財務官僚をはじめとする政府が、ありとあらゆる手を使ってやりくりをつける。「行政に空白はつくらない」「国民生活に支障を生じない」ことが最優先される。この「やさしさ」が、国民のなかにおける政府運営の当事者意識の欠如―無責任を育んできた。

 「国民生活に支障を生じない」に越したことはない。ただし政府とは「お上」ではなく、本来は、国民が主権者として付託した代表を通じてコントロールする対象である。コントロールに失敗すれば、責任も負担も国民が負わなければならない。財政民主主義はこうした当事者意識のうえに成り立つものだ。「国民生活に支障を生じない」を優先してしまえば、国民は決定主体ではなく、決定結果を受け取るだけの受益者でしかなくなってしまう。一千兆円の財政赤字は、その結果にほかならない。

 巨額の財政赤字は必然的に、受益の減少を生じる。決定はお任せ、結果には文句を言うという受益者にとどまるところから生まれるのは、負担の転嫁や犯人探しという不信と分断の負のスパイラルである。未来へ投資する社会へ転換していくためには、ここを上手にたたんでいかなければならない。

 その舞台はなによりも地域の自治の現場だ。地域の実情に応じた、住民の目が届く意思決定の場でこそ、当事者意識は育まれる。そのためにもまず、「どうなっており、どうなりうるか」を共有することだ。地方分権の進行で、地域政治の決定領域は格段に広くなった。選挙に限定されない市民の地域政治へのかかわりは、地域の政策や制度に関する議論への参加や運動として行われている。
 こうした住民参加の拡大は、受益者市民としての要求から地域経営の感覚への転換の糸口となりうる。別の言い方をすれば、議会が受益者市民の代弁機能(議場で陳情する)から、市民が経営感覚を身につけるための政策論争のアリーナとなることが求められる、ということでもある。

 地域において多様な意見や利害を集約、調整する過程、合意形成の水準は、企業経営における「選択と集中」、「市場による最適配分」よりはるかに複雑で多面的なものだ。だからこそ、決め方の正統性=自分たちで納得して決めた=が不可欠となる。代表制民主主義(議会)の強化と、直接民主主義による補完をここから再定義していくことである。

 また地域民主主義の深化は、多様な地域再生活動とも連動する。スーパーコミュニティー法人やまちづくり協議会、地域主体の自然エネルギー事業といった本格的な事業経営から、商店街の活性化や地域ブランド、B級グルメ、地産地消、地域通貨のようなものまで、規模も行政とのかかわりも多様であるが、共通して求められるのは「持続可能」、「質素・簡潔」、「蓄積」(おひさま進歩)ではないか。そこに集積されるのはお金以上に、地域を自ら経営していこうという当事者意識と、住民自治を涵養していく社会関係資本にほかならない。

 財政民主主義の確立、地域民主主義の深化、地域経営の質の向上などの多面的アプローチと、それらを統合していくアプローチのなかから、未来へ投資する社会への道すじをつくりだそう。11月10日のシンポジウムでは、エネルギー自治を切り口に、こうした議論を共有したい。

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シンポジウム
未来へ投資する社会へ〜エネルギー自治、循環型社会
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シンポジウム 「未来へ投資する社会へ〜エネルギー自治、循環型社会」
11月10日(日)13時より17時
場所 日本交通協会 大会議室 (有楽町・新国際ビル9階)
http://www.kotsu.or.jp/bp/root/room/
参加費 2000円

第一部 問題提起
1.バイオマスタウン真庭の挑戦  銘建工業(真庭市)・中島浩一郎社長
2.再生可能エネルギーによるまちづくり  太田昇・真庭市長
3.再生可能エネルギーで地域を再生する  諸富徹・京都大学教授

第二部 パネルディスカッション
パネラー 
植田和弘・京都大学教授、諸富徹・京都大学教授先生、寺西俊一・一橋大学教授、
おひさま進歩(飯田市)・原亮弘社長、銘建工業(真庭市)・中島浩一郎社長 太田昇・真庭市長

*参考*
「里山資本主義」(藻谷浩介+NHK広島取材班 角川oneテーマ21)
「再生可能エネルギーで地域を再生する」 諸富徹 「世界」10月号
-- 石津美知子
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